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思惑.3
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「おつかれさま〜、気をつけてかえるんだよ」
「おつかれさまです、はい、ありがとうございます」
いつも通り、無事にバイトを終えて、帰途につく。
俺が働いているのは、小洒落たバーもどきのような場所で、学園から徒歩20分くらいの場所にある。
決して近くはないものの、学園の近くにはそもそも何もないから、ある程度は仕方がない。
それに、学園の人間と鉢合わせる可能性も低いから、かえって好都合。
………………だった、はずなのだが。
「あっれーーー?かいちょーじゃーん」
………………どうしてこいつがここにいるのか。
「お前、こんなところで何してる」
「え〜〜?それは、こっちのセリフなんだけど〜〜」
「俺は、ただの私用だ。許可もとってる」
「ふ〜ん?私用、ねぇ…………?」
ゆっくりと、殊更言葉の意味を強調するようなリズムで、紡がれた言葉。
なんだか含みのある声に、薫の目を見つめる。
「何か言いたいことでもあんのか」
そう問いかければ、薫は珍しく目をすがめてこちらを見ていた。
「ん〜〜〜、べっつに、オレはいいんだけどね〜?」
口角だけ吊り上げた不気味な笑みのまま、一歩二歩と、こちらに近付いてくる。
困惑している間に、驚くほど近くに、その顔が迫る。
あまりの近さに後退るも、その距離はすぐに再度詰められ。
「そうやって、いつもはぐらかしてばっかりいるけどさ」
伸ばされた指が、俺の首を搦めとる。
「自分で自分の首を閉めるのが趣味なの?随分素敵な趣味だね?」
「!!」
クイっと、軽く力を込めた指は、けれどすぐに首から離れて。
「な〜んちゃって☆
びっくりしたぁ〜〜?」
そんな軽い声とともに、それまでの重苦しい空気は、霧散した。
薫の真意が掴めず、その瞳を見つめるも、どこか無機質な茶色は、本心を写しはしない。
「…………おまえは、なにを考えてんだ」
それは、無意識に口から溢れた、本心だった。
すると、そのことばに、薫は意外そうに目を瞬かせて。
「…………さぁね?」
そういって、ゆったりと、笑った。
「にしても、かいちょーがオレに興味持ってくれるなんて、意外〜」
けれど、態とらしくそう告げた時には、もういつもの"音川薫"に戻っていて。
………ほんとに、切り替えの早い奴だ。
見ているこっちが疲れる。
「…………おまえは俺のこと、なんだと思ってんだよ」
「ん〜〜?そうだなー、例えるなら、"何事にもキョーミのないオウサマ"ってかんじー?」
「…………なんだそれ」
あまりにも馬鹿馬鹿しい例えにため息がこぼれる。
ふわふわへらへらと軽い空気。
それでいて腹に一物も二物もありそうなこいつの言葉は、取捨選択が難しい。
「……えぇー、あながち間違ってないと思うけどなぁ。だってさ、カイチョー、今までにオレたちがなに考えてるかなんて、気にしたこと、あった?」
案の定。
巫山戯た言葉を吐いたその口で、こいつは核心に噛みつくのだ。
同じ速さ、同じ軽さで告げられたそのことばは、正確に心臓をひりつかせる。
「カイチョーは、オレたちのこと、どのくらい理解できてる?」
それは、まるで、生徒会室で、あいつに言葉を投げかけられたときのような。
「カイチョーは、最初から関わる気なんてなかったでしょ?どーでもよかったんじゃない?」
明確な悪意のある、けれど的を射た避難。
俺を見つめる瞳は、歪に弧を描いていて。
「あは、図星〜?」
その声音は、子供がアリを踏みにじるような、そんな残酷で無邪気な嗜虐性を含んでいる。
いつものように、軽く躱せばいい。
それだけの、はずなのに。
「………………」
俺は、ただただ立ち尽くすだけで。
なにも、言えなかった。
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