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兆し.3
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何だって、手に入れるのは難しいのに、手放すのは簡単だ。
ほんのちょっとのすれ違いが、手元から大切なものを奪っていく。
すり抜けるのは一瞬で、隙間を埋めるように慌てて帳尻を合わせようとしても。
気付いた時点で、もう遅い。
だからといって、初めからなにも手に入れないでおこうと言うのも、なんだかんだ、難しいらしい。
それは、つまり。
『…………あなたもそろそろ、前を向く頃なんじゃない?』
『そうだぞ。いつまでも目を、耳を閉ざしていても、過去は変えられないし、事態は変わらない。
……いつも言っていただろう?』
「……大切なのは、"自分"がどう"する"か……」
『……そう、わかっているじゃないか』
簡単ではないだろうけどね、お前ならできると私達は信じているよ。
どうしてだろう、これまでずっと、無色で、無機質で、冷たいだけだった空間に。
ーーーーー今日はたしかに、懐かしい温もりがいてくれた気がした。
ーーーーーー
(No side)
キィ。
静まり返っていた生徒会室の扉が開く音がして、立て続けに人影が3つ、各々の椅子に向かって足を進めていく。
「…………今日はまだ、いねぇんだな」
ぽつりと光毅が呟けば、同調するように野上が頷いた。
「あぁ、珍しいな」
また無茶してねぇといいけど、といいながら、会長の机に視線を向ける。
その机に散らばるのは、3人の記憶にはないような、夥しい量の書類だ。
「まぁ、この調子だと、無茶してねぇわけがねぇけどな」
そう言って、野上はフンと気に入らなさそうに目を眇める。
そして、不愉快そうに、未処理の書類を数枚手に取ると、早速取り掛かり始めた。
「やっぱり、会計様のこと、気遣ってたみたいですね」
その隣では、柴山がなんてことはなさそうにそう言って、今度は処理済みの書類を綺麗に分類していく。
「……やっぱお前、なんか気付いてたな」
「そういう光毅だって、何かは感じてたでしょ」
「…………まぁ、あいつだしな」
「はは、それもそうだね」
「………………柴山、お前なんか仕掛けてんだろ」
ちらりと柴山に視線を投げかけながら、野上がそう言えば、柴山は不自然なほど爽やかにニッコリと笑う。
「えー、なんですかその言い方、人聞きわるいなぁ」
「だって、お前がなんかを察してそのまま引き下がるとは思えねぇからな」
「ふーん…………随分な観察力ですね?
……………それを、会長に使ってあげればよかったのに」
ぼそりと呟かれた僅かな非難に、野上は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「………………なーんて、すみません、生意気いいましたね。これじゃ光毅のこと注意できないや」
一瞬生徒会室に漂った気まずい空気は、その大元によって、あっさり収束させられる。
その苦笑が本物か偽物かは、本人のみの知るところだろう。
「…………で?アイツらは今頃何してんだ?」
「あー…………」
気を取り直したらしい野上が柴山にそう問いかければ、生徒会室をぐるりと見渡した柴山の視線が、ある場所で止まった。
そのまま、スッと指をさしたのは。
「「……………仮眠室?」」
よくよく見れば、昨日は閉まっていたはずの仮眠室の扉が僅かに開いていて。
そのまま3人がそっと近づいてみると。
そう広くはないベッドの上で、すやすやと眠る、金と黒。
「…………」
3人はしばしその様子に硬直してから、そっとその扉を閉める。
「は???あれ、どういう状況だよ!!!」
「んなもん、知るか」
割と衝撃的な光景に混乱した2人は、柴山を見つめる。
「…………いやぁ、俺もまさかああなってるとは……」
そう言いながらもその瞳は、愉快そうに細められている。
「大体なんで、会計があんなとこに……」
至極当然の疑問に返されたのは、1つの同意と1つの返答。
「…………さぁ、スマホでも忘れたんじゃない?」
ニッコリ爽やかに笑う柴山は、もうそれ以上はなにも喋らず、ひたすら書類の整理に集中しだす。
それに続くように、作業に戻りながらも、2人は言い知れぬ悪寒を感じていたのだった。
ーーーーー
結局1番強いのは柴山くん。
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