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歪み.7(side.鈴原)
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それが、編入生の椿屋恭介だったと知ったのは、それからすぐのことだった。
良くも悪くも目立つ彼の噂は、瞬く間に生徒の間に浸透して行って。
だれもかれもが、彼から目を離すことができなかった。
僕ももちろん、そのうちの1人。
彼のおかげで、普通に生きることができるようになった。
僕の中で彼は、救世主なんて言葉じゃ、全然足りない。
だからずっと、彼の行動を見ていた。
彼の言葉に、聞き耳をたてていた。
ーーーそうして、どんどん彼に惹かれていった。
なんて綺麗に生きる人なんだと。
その綺麗さに、どうしようもなく惹きつけられて。
……そして同時に、その綺麗さが怖いとも思った。
完璧な彼は、気づかれない内に、自分でも気付かないうちに、壊れてしまいそうだなって。
蔓延していく、よく見ていたら、嘘だって笑い飛ばせるような噂。
それとともに募っていく不信感。
そして、彼はそれを放置する。
彼なら一言で、きっとそんなものすぐに消せるのに。
弁解も抵抗もしない彼は、ただ静かにそれらを聞き流していた。
彼はいつも自分の力を、自分のことに使おうとはしない。
……そんな彼を支えたくて、何か力になりたくて、親衛隊に入った。
だけど、ただの親衛隊にできることは少なくて。
だから、ずっとずっと、役に立てる機会を伺っていて。
「鈴原くんを、副隊長に任命しようと思う」
だから、そのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
前副隊長が、やめてしまって、舞い込んだまたとない機会。
「頼んでもいいかな」
「はいっ!もちろんです!!」
願っても無い言葉に、一も二もなく頷いた。
「最近、親衛隊の空気が良くないからね、君のような子が副隊長になってくれると心強いよ」
一緒に、最初の頃みたいな、会長さまを支えられる親衛隊に、戻していこうね。
そう言って穏やかに、綺麗に笑うこの人は、学園で会長の次に支持されている、人気者だ。
こんな人がいるなら、僕の理想だって、叶えられる。
手元に舞い込んだ、これ以上ないチャンスを無駄にはしたくなくて。
まずは、会長様に会いに行った。
なんと思われたって、何をされたって構わない。
だって、この名声も、地位も、彼がいなければ最初からなかったものだ。
そんなものより。
僕にとっては、僕自身の意思で、後悔しないよう、"今日"を生き抜くことの方が、ずっと大事だ。
だから。
「………待っててくださいね、会長。」
自分を鼓舞するように、ぎゅっと拳を握りしめて、前を向いた。
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