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亀裂.5
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「お前、なにしてる!!!」
そんな、聞き慣れた声が聞こえたと同時に、覆いかぶさっていた修が吹き飛ばされた。
「おい、椿屋!!!大丈夫か!?聞こえるか?」
それと同時に、必死の形相でこちらをのぞきこんでくるのは。
「…………、っ、せぇんだよ、武川……。聞こえてる」
ついさっきまで一緒にいた、あいつ。
ただそう答えただけで、武川は泣きそうに顔を歪めて、俺の肩に額を乗せた。
ついこの間と、全く同じ体勢だ。
「だから、ついていくっていっただろ、嫌な予感がするって」
その声は震えていて、触れ合う場所から、体も震えているのだとわかる。
どう反応して良いのかわからなかった。
「……べつにこのくらい平気だ。大袈裟なんだよ」
だからそう言って、軽く額を押し退ければ。
「…………ッざけんな!!!!」
武川は、そう叫んだ。
「自分を大事にしてくれって言っただろ!!なのになんでいつもお前は……!!!!」
そこで言葉を止めた武川は、一度目を閉じて、深く息を吐いた。
「…………はぁ、まぁいい。これは後だ。
…………それで?ここまで暴力を振るった理由を聞かせてもらおうか」
そう言って再び目を開けば、その目にはいつも通り、冷静な色が浮かんでいて。
その目を真っ直ぐ修の方へ向けて、武川はそう問いかける。
「…………そいつが、先に瑆に切りかかったんだ」
「そうだぞ!!そいつが、いきなり切りかかってきて……!俺、怖かった……!!もし修が助けに来てくれなかったら」「黙れ、今俺は犬飼と話をしている」
修の主張に被せるように騒ぐ相沢を、武川は一言で黙らせた。
「……で?相沢にこいつが切りかかったって?」
「そうだ。刃物を振りかぶるところを見た」
「……刃物?」
その言葉に、再び武川の目はこちらを向いて。
そうして俺の手元を見て、その目は見開かれた。
「…………」
なんだかやるせなくなって、視線を逸らす。
「馬鹿、お前手を開けろ!!!!」
けれど、武川の反応は、俺が予想したものとは全く異なっていた。
そのあまりの剣幕に、反射で刃物を握っていた手を開けば、鋭い痛みが走る。
「っ!!」
思わず顔を顰める間に、痛む手に布を巻きつけられた。
「刃を素手で握るバカがどこにいる!!!大事な神経が傷付いたらどうするんだ!!!!」
そう言って、止血するようにぎゅっと握り込まれて。
そうして巻きつけられた布があっという間に赤く染まっていくのを、ただぼんやりと眺めていた。
「……で?お前らは、こいつが、肝心の刃先を握ったままそこの相沢に危害を加えようとした、と言うわけだな」
「っ……、そんなの、さっき持ち替えたに決まって」
「殴られる前にか?殴られる間にどんな衝撃が加わるかもわからないのに?」
「っ…………!」
言葉に詰まった相沢を冷ややかな目で見下ろして、武川は俺を抱き上げた。
「は!?おろせ!自分で歩ける!」
「うるせえ、黙れ。俺は今機嫌が悪いんだよ。
あと、相沢。犬飼。
お前ら2人に、謹慎1ヶ月を言い渡す。正式な書類は後で張り出す。くれぐれも部屋から出るなよ」
そう言うが早いか、俺を抱き上げたまま、寮の方向に向かって歩き始める。
後ろで未だギャンギャン喚く相沢には、一瞥もくれない。
「…………今は手当が先決だが、お前本当いい加減にしろよ」
沈黙が舞い降りる帰り道で、武川は静かに、ただ一言そう言った。
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