アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
兆し.4
-
真っ暗な空間の中で、ひとり立っていた。
ひとりで立っているはずなのに、声が聞こえた。
「返せ!!!!!」
いきが、つまるような。
「ねえ、どうするの」
胸が、ちぎれるような。
「なんであんなやつが」
噎せるような苦味を噛みしめるような。
「正しい」
「完璧」
頭を掻き毟りたくなるような。
「なんで抵抗しない?」
わけがわからなくなるような。
「あいつ」
「おまえ」
「あんた」
「椿屋」
「響介」
消えてしまいたいとおもうような。
「進まないと」
ここに居たくないと思うような。
「許さない」
それでもいなければいけないような。
そんな、声が。
ぐるぐる回る、
回って、
ぐちゃぐちゃになって、
それでも浮かんで消えない。
思考、懸念、罵倒、疑問、言葉、顔、名前、過去、今、未来?
こういう感情を、なんと言うんだったか。
ただ漠然とした、胸を圧迫して締め付けるような重みだけが、脳みそを支配して。
ただ何かが迫ってくるような感覚から逃げるように、走り続けるような。
そんな、息苦しさの中で。
「……………………?」
ふと、わからなくなった。
走っていたはずの、自分。
でも、一体何から?
迫ってくる何かは、なんだった?
途端に、ぐるぐる回るものは有象無象にぼやけて、捉えることが難しくなる。
気持ちが悪いのに、感覚が消えるわけではないのに。
さっきまでたしかにあったはずのものの。
その輪郭ばかりがぼやけて、頭がおかしくなりそうだ。
けれど、あった気がする冷たさも。
見えた気がした、暖かさも。
ますます曖昧に霞んで、捉えられなくなって。
「……なん、」
駆り立てられるように吐いた言葉が、痛みとともに自分に跳ね返ってきて。
「椿屋さん?!」
「先生!!!」
急に視界は白くなり、周りは騒がしくなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
75 / 125