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決壊.1(side.武川)
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次の日も、その次の日も、またその次の日も。
椿屋は、学校に来なかった。
「委員長……」
「…………」
惰性で授業にでて、惰性で風紀の仕事をして。
そうしていたら、まるで全てが冗談だったみたいに、あいつが来るんじゃないかって。
『だから無理するなって言っただろ!』
そういう俺に、
『だから大袈裟なんだよ』
なんともなかったんだから。
そんなことを言って、元気で、すこしだけキズをおったあいつが歩いて来るような気がして。
ぐしゃり、手元で書類が歪む。
周りの気遣わしげな視線も、自分の中の処理できない感情も、全てが煩わしい。
「…………委員長ってそんなに会長と仲よかったんだ」
「……嫌ってるのかと思ってた」
「いや、実際あたり強かっただろ」
そんな周りの噂越しに、今度は過去の自分の失敗まで降りかかってきて。
いやでも思い知る。
そうだ、ついこの間まで俺は"あちら側"だったのだと。
大怪我を負って、運ばれて行ったあいつ。
そんなあいつを大半の生徒は、
"今までのつけが回ってきたんでしょ"
そんな簡単な言葉で処理した。
あのとき。
『おい、椿屋?!』
床に倒れているあいつを見なければ。
あいつが事情を話してくれなければ。
静かに溢れる涙を見ることがなければ。
俺はきっとまだ、"あそこ"にいたのだろう。
普段から人の心を弄んでいた報いだと、そういって鼻で笑いさえしたかもしれない。
そんな思考ばかりが頭を占拠し始めれば、もう仕事すら手につかなくなった。
食事を作ることも面倒で、なにもする気がおきない。
見かねた風紀委員たちに、休んでいいと言われては、そそくさと部屋に帰って。
「………………つばきや」
部屋のベッドに座り込んで、携帯を握りしめる。
最後に受信したメールの画面を、そっとなぞった。
このメールを受信した時には、たしかにその先に無事なあいつがいたのに。
どうしてよりにもよって、俺がいないタイミングであんなこと。
なにが起こったのか、詳しくは知らない。
鈴原が制裁を受けかけて、それをあいつが助けようとして。
その過程で突き飛ばされた鈴原を庇った。
そんな概要だけ。
『お前じゃ、冷静に対処できねぇだろ』
めずらしくまともな、大人の顔をした保健医にそう言われ、流血沙汰ともなれば、風紀の領域をこえているということもあって。
『…………はい』
情けなくも、そんな一言だけ零して、背を向けた。
そうしないと。
ーーーーーわめき散らしたまま教師に連れられていったあの生徒を、今度は俺が突き飛ばしてしまいそうだった。
何故そいつが椿屋を突き飛ばしたのかなんて、どうでもいい。知りたくもない。何もしたくない。
そんな、益体も無い思考と行動を繰り返して、1週間がすぎた頃。
「おい、武川。ちょっといいか?」
そんな呼び出しに応じて、保健医に向き合えば。
「椿屋、目を覚ましたらしいぞ」
落とされた、待ち望んでいたその言葉に。
1週間ぶりに、視界が、思考が、明瞭になった気がした。
「あっ、おい!まて!!!」
そうして、気がつけば駆け出していた。
授業も、人目も気にならない。
早く。
あいつのところへ。
何度も何度も訪れて、門前払いされた病室。
今そこには、意識があるあいつがいる。
その絵を想像しただけで、涙が溢れそうだった。
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