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決壊.2
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ふと、浮上した意識。
「………………」
なんだか覚束ない感覚に、ゆっくりと、瞬く。
ついさっき、騒がしい声が周りにあった気がしたのに、拍子抜けするほど静かだった。
そうして、自分の状況を確かめようと、身を起こそうとして。
「ッ、……は?」
ズクン、金槌でふり抜かれたような頭痛に、ずるりと手が滑り落ちた。
その瞬間。
「危ないっ!」
そんな声とともに、何か温かいものに包まれて。
「ッ?!?」
なぜか背筋が凍るような悪寒が走って、反射的に押しのけた。訳も分からないまま、鈍く痛む頭を抑え見上げれば。
「………………隼人…?」
「………………ッ、ごめん、響介……ご、ごめん……」
今にも泣きそうな顔をした、人生で一番見慣れた顔が立っていた。
「……は?なんだこれ、どうなってんだ」
自分がここに来る直前、一体何をしていたのか、全く思い出せない。
朧気な記憶から察しはしていたものの、視界に入る景色は、ここが病院であるらしいことを物語っている。
「お願いだ、響介、聞いてくれ。俺ずっと話しがしたくて……」
そうして状況を把握する間にも、泣きそうなまま話しかけて来る隼人。
そのあまりにも切羽詰まった様子は、あまりにも隼人らしくない。けれどそれよりも、その台詞に強い違和感を覚えた。
「…………ずっと……?」
「おれ、最後にあんなこと言って、それで、お前はいなくなって」
「は?待て、何の話だ」
「何のって、"あの時"の話だよ。あれから3年間、俺ずっと後悔してた」
「3年…………?」
状況を飲み込めず、話にもついていけず。
混乱する俺を置き去りにして、隼人は話し続けた。
「俺、お前の気持ち全然考えてなくて、1番辛いのはお前だったのに、ごめん、ほんとにごめん」
「……………」
「だから、この間、お前が入院して、目を覚まさないって聞いて、謝らなきゃって、ねぇ、ごめん、こんな言葉じゃ済まないってわかってるのに、ごめん」
そう言って、肝心の核心に触れることはないまま、隼人は俺の目の前で、顔を覆った。
その様子に、ひやりと心臓が冷たくなる。
馬鹿みたいに明るくて、素直で、快活で。
俺が見てきた隼人は、俺が"覚えている"隼人は、そんな人物だ。
そう、"つい昨日"まで、そうだったはずだ。
それなのに。
俺の記憶とかみ違う言葉。
その齟齬は、"勘違い"の一言で済まされるようなものじゃない。
「……………隼人」
ぴくり、震える肩を見つめながら、頭に浮かんだ疑問を吐き出す。
「…………お前……いや、"俺たち"、今何歳だ?」
その言葉に、勢い良く上がる顔。
その一瞬で、隼人の顔には、把握できないほど複数の感情が浮かんでは消えた。
戸惑い、懐疑、衝撃、吃驚、それから。
「…………17歳だよ」
恐る恐る吐げられた、予想とそう外れない解答。
そうして、やっと理解した。
「椿屋!!!!」
そして、駆け込んでくる、見慣れない顔にまた、確信する。
ーーーーこの体の持ち主は、"俺であって、俺ではない"のだということを。
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