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決壊.4
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「………"まで"?」
拾い上げた断片的なそれに、隼人は一層焦った顔をした。
「っ、ちょ、ちょっと、母さん!来て!」
そう言うがはやいか、真理子さんの腕を引っ張って、病室から出て行く。
けれどそれは逆に、俺の中の不信感を強めただけだった。
ーーーー何故、両親が、兄弟が、ここにいないのか。
どうして、1番にここに来たのが、あいつだったのか。
何が、3年後の俺を、"俺"とは全く違うものにしたのか。
その答えが、すぐそこにある。
「ーーーーいない、のか」
もう、この世に。
どうしようもない胸のざわめきに気を取られながらも、視界の端に映った携帯。
強い衝撃を受けたのか、ひび割れたそれは、けれど機能には問題がなかったらしい。
ピコン、そんな軽い音をたててついた画面から、電話帳にとべば。
・犬飼修
・音川薫
・志田真理子
・柴山奏
・武川蓮
・野上伸也
・光毅透
表示されるのは、そんなたった7件の、殆ど見知らぬ名前。
「…………だれだよ」
記憶にある友人の名前も、家族の名前も。
「ごめん、お待たせ」
取り繕ったように、"いつも通り"の笑顔を浮かべる、こいつの名前も、ない。
「………………なにも、なかったんだな」
「……え?」
「3年後の俺には、何もないんだな」
ーーーー当たり前に持っていたはずのもの、全部。
「……!ぁ、それ、は」
気まずげに視線を彷徨わせる隼人に、無性に腹が立った。
何も思い出せない自分にも。
「…………いや、何でもねぇ。しばらく1人にしてくれ」
「……でも、」
「いいから」
「…………わかった。
でもなんかあったら、呼べよ?」
気掛かりそうにしながらもあいつがいなくなって、ようやく一息つく。
ぐしゃりと乱雑に髪をかきあげた。
「…………わかんねぇ」
なにが、どうなっているのか。
記憶の中の自分は、やる事は多かったとしても、それなりに楽しくやっていたはずだ。
友人も、楽しみも、苦労もそれなりにあって、仲が良い家族がいる。
そんな平凡で、だからこそ幸せな日常を築いていた。
そのはずだったのに。
「…………ほんと、誰なんだ。
なんで、いないんだ」
がさり、無意識に握りしめた布団が、音を立てる。
この気持ちをぶつける場所が、見つからない。
俺は明日から、どうやって生きていけばいいんだ。
"俺"として?
"3年後"の俺として?
どちらにしろ。
「…………俺に、居場所なんてあるのか」
持っているはずのものが、いつのまにか無くなっていた俺。
7件しかアドレスもなく、笑うことすらしないらしい、空っぽな俺。
そんな俺を、受け入れてくれる場所なんて。
『つばきや』
一度会っただけのあいつの声が聞こえた気がして。
「……………はっ、」
馬鹿馬鹿しい。
覚えてもいないくせに、何故俺が感傷にひたっているのか。
そんな、権利もない。
「………………」
そこで、ふと気になった。
…………この携帯を見れば、何かわかるだろうか。
カチリ、どこか緊張に強張る指先で、着信履歴を押す。
すると。
『武川蓮』
そこには、同じ発信者から、夥しい量の不在着信が入っていた。
「…………なんだ、これ」
日付を確認すれば、全て同じ日。
そのまま、メールの受信ボックスを見れば。
『おい、動くな』
『返事しろ』
『行くから』
そんなメール。
ふと気になってそれより前のメールを開けば。
『無理はするなよ』
『何かあったらいってくれ』
頻繁にではない、けれど定期的に送られていたそれ。
「…………やっぱ仲良いんじゃねぇか」
それなら。
『……いや、なんでもない。そうだな、そうだといい』
あの言葉の意味は、なんなんだよ。
「…………わかんねぇ、よ」
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