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3.(side.???)
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「ねぇ、やっぱり会長って、本当は……」
「…………やっぱり、そうなのかな」
ひそひそと囁く声に、あいつを擁護するようなものが増え始めたのは、いつからか。
「あ、ほら……」
「ほんとだ、」
「うわ、すげ」
「やっぱさすがだよなぁ……」
「は?!お前ら最近なんなんだよ」
「だって……なんか最近さ」
「ね、なんかおもってたのと違うし」
「雰囲気、思ったより柔らかいよね」
そんな風に言い合う奴等の視線の先を辿れば。
「………………」
軽く笑みを浮かべて、バスケットボールを器用に操るあいつ。
周りにいる生徒にこれと言った特徴はないが、やけに親しげだ。
…………重なる。
取り囲まれて、笑っているあいつ。
あいつの周りに群がる有象無象。
どんな逆境だって、何でもないようにこなしてきた、あいつ。
ーーーーー最近では鳴りを潜めていた、大嫌いな昔のあいつと、そっくり重なる。
周りが見ているとわかりながらも、視線は吸い寄せられた。目が、離せない。
向こうの視界の、ほんの端っこにすら、自分は映っていないというのに。
それが、自分も有象無象の1人に過ぎないのだと、知らしめてくるのに。
むかつく
なんでお前はそうやって
何度何もかもを失っても、堕ちるところまで堕ちても。
そうやってなんてことはない顔をして、やる気がなさそうに構えて、それでいて這い上がってくるんだ。今度こそ、今度こそもう無理だろうと、そう思ったのに。
「ーーーーっ、隊長っ!隊長は、嘘なんてつきませんよね?」
動かない自分と、周りの発言に思うところがあったのか。
すぐそばに並ぶのは、泣きそうな顔、泣きそうな声。
どれも、あいつを追い詰めた側にいた奴等だ。
罪悪感と自分の中の信念を天秤にかけて、まだ俺を信じると決めた、愚者たち。
勿論、直接"やれ"なんて、こちらは一言も言っていない。
俺は、ただ泣いただけだ。
ただ、囁いて、演じた。
『袖にされても会長に尽くし続ける、健気で有能な親衛隊長』を。
そうすれば俺に狂信している奴等は、勝手にあいつを追い詰めた。
"自分達は間違っていない"
そんな奴等の根拠のない確信はどんどん揺らいで、今にも崩れそうになっていて。
『もちろん』
そんな、やはりなんの根拠もない俺の言葉で揺らいだ確信を固定して、視界にちらつく自分達の罪を否定しようと、躍起になっている。
ーーーなんて愚かなのか。
自分にとって都合が良いはずなのに、此の期に及んでまだ自分を信じようとする彼らは、本当に愚鈍で、見ているだけで腹立たしい。
本当は、もう気付いているくせに。
自分達が、間違えたこと。
そう、ぜーーーんぶうそだよ、お馬鹿さん。
最初から最後まで、髪の毛一本分すら、存在しないんだよ。本当のことなんて。
全部が嘘だ。
それも、俺のエゴを満たすためだけの。
そうやって真実を告げて、目の前の有象無象を嘲笑うことができたなら。
少しはこの煮えたぎるような不快感も落ち着くのだろうか。
自分の中の一欠片がそうしたいと喚き立てる。
例えそれで、自分の全てがめちゃくちゃになったとしても。
なんでもいいから、目に見える形で何かを引き裂いて、ぐちゃぐちゃにしてやりたいのだと。
そんな、暴力的な衝動が喉元にまで込み上げる。
けれど、まだ、だめだ。
だってまだ、アイツを引きずり下ろせていない。
ほんの爪痕すら、残せていない。
「…………うたがうの?」
全てを押し込めて放った言葉は意図した以上に冷たく響いて、"僕"らしくなかったかもしれない。
それでも態とらしく、寂しげに瞳を伏せれば、狂信者達はあっさり手のひらを返す。
「あっ、いえっ!ちがうんです、そんなつもりじゃ……」
「すみません!勿論隊長のこと信じてます!!」
健気に忠誠を誓い続ける愚かな手駒達。
けれど、その愚かな手駒達こそが自分の持ちうる唯一の武器でもある。
自分が計画を成功させるためには、こいつらをうまく使い続けなければならないのだ。
「……」
「……」
けれど、限界があるのも事実。
向けられる欺瞞の目は、向けられる背中は、確かに増えている。それはそうだ、真実はここにはないのだから。
だから、離れてしまうならそれだって別に構わない。
ーーーーそんなことより。
窓ガラスの向こう、陽の光に照らされながら立つ、その姿を再度睨みつけた。
ああ、
ーーーーーー憎い。
そう、憎くて憎くて仕方がないのだ。
絶望する顔が見たかったのに、肝心の鈴原は無事で。
あいつは記憶を失って、それ以外の失くしたものを取り戻そうとしている。
ーーーーそんなこと、許さない。
そう、だからもう、高みの見物じゃなくたっていいのだ。
相討ちだって構わない。
優雅でなくても、自分も地面に這いつばって生きることになったとしても構わない。
お前が地に這い蹲るところを見ることができるならば、それで。
「………………」
今の自分を見れば、100人中100人が、愚かだと嘲笑うだろう。
この意味のない執着を、愚かな執念を。
わかっている、わかっているのだ。
この茶番に意味なんてないこと。
結果がどう転ぼうと、もう失うものの方が大きいだろうことも。
けれど、そんなことはどうでもいい。
第三者から見た権力もなにもかも必要ない。
望むのはただ、あいつの没落だ。
ーーー絶対にお前のことだけは、堕としてやる。
ーーーーーーーーーー
皆さんお久しぶりです。
誇張が一切ないレベルの亀更新、申し訳ありません…_:(´ཀ`」 ∠):
最近はもっぱら序盤の修正作業ばかりで録に更新できておりませんでした。
私情が立て込んでおり、現在更新が難しい状況ですが、どうにか完結まで漕ぎ着けたいと思っておりますので、お付き合いいただければ幸いです。
2019.10.30
佐久田
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