アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
68
-
当たり前の事なのだが、出張が決まってからというもの山田と話す機会が格段に増えた。
揃えなければならない資料の確認、提出書類の進行状況………。
「先輩、この見積りですけど材工共じゃなく詳しい明細を記載した方が………」
あれだけ俺を避けていた山田が、自分から積極的に俺に話し掛けてくる。
それは俺にとってとても喜ばしい変化であり、事実、俺は浮かれていた。
「ああ、そこはね二段構えで最初はそっちの甘いの見せて、向こうがノッて来た所を後からこっちの細かいヤツ出して仕留めるんだよ~」
そう言って、俺はピラピラと山田の眼前に詳細がまとめられた見積り書類を揺らして見せる。
「………失礼」
一言断りを入れてから、山田はその書類を手に取りしばらく真面目な表情でじっと目を通して………ポイッとこちらに投げて寄越した。
「わっ、わっ!ちょっ………大事な書類をお前っ」
慌ててそれを落とさないようになんとかキャッチして山田に抗議するも、涼しい顔をして無視される。
仕方がないから俺は小さく舌打ちを一つして、このイライラのエネルギーをパソコンと仕事にぶつけてやった。
………話はするようになったのだ。
けれど、それは仕事上どうしても確認の必要な事項を簡潔に済ませているだけ。
プライベートでの会話は相変わらずないし、態度は素っ気ないしで………だけど、ここでへこたれて挫けていじけていても仕方がない事は重々わかっている。
邪念を抱え悶々としたまま黙々と仕事に没頭していたら、急に肩を叩かれ振り向けば無表情の山田が書類を手渡してきた。
「先輩、見積り書類をこちらに差し替えて、きちんと真っ向からぶつかりましょう。下手な小細工は労力の無駄と逆効果でしかありません」
俺が作ったものよりも数段見易く、また詳細に書かれた書類………勿論、俺だって山田に見せたあの見積りはまだ完成ではなく、期日までにもっと手を加える予定だった。
けれども………
「あぁ、そーだな。そーするよ」
山田が仕上げて持ってきた書類は、俺が最終的に作成しようとしていたものより明らかに優れていた。
「お願いします、先輩」
ニコリともせず、さも当然だという顔をして頭を下げてから去って行こうとする山田を苦々しい気持ちで見詰める。
「………可愛くないヤツ」
「それ、誉め言葉ですよね?」
小さな声で聞こえないように吐き捨てた言葉はしっかりと山田に拾われてしまった。
「………チッ」
あぁ、忌々しい。
イライラする。
“下手な小細工は労力の無駄と逆効果でしかありません”
………先程の山田の言葉が胸に刺さる。
「………お前だって、一番最初はお前が俺に小賢しい真似して嵌めたんじゃねぇかよ」
なんとなく、山田との仲はギクシャクとしたまま………それでも月日は変わりなく過ぎていき、出発の日がやって来た。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
68 / 114