アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
69 長崎出張、一日目。
-
「あ………僕、遅刻ですか?」
言われて腕時計を見てみると待ち合わせの時刻まで、あと5分もある。
「いいや、俺が早く来すぎただけだよ」
………これがデートの始まりの一幕であったなら、なんて素敵な場面だろうか。
「良かった。センパイの事だから俺より遅い奴は遅刻だー………とか、理不尽な事言い出して来そうで」
残念ながら、これは仕事で、おまけに可愛いコイツの口からは相変わらずの可愛くないお言葉。
「うるせぇよ。ほら、チケット………さっさと行くぞ」
チケットを乱暴に山田の胸に押し付け、俺は自分の荷物を持って改札へ向かって歩き出す。
「あっ、飲み物………」
間の抜けた事を抜かすコイツに呆れた顔を向けながら、
「んなもん、新幹線の車内販売で良いだろーが」
と突っぱねる。
すると山田は渋々といった面持ちで大人しく俺の後に着いて、並んで改札に切符を通し乗り口へ向かって歩いた。
「わざわざ出向く事もなさそうなのに、長崎なんて………本当に面倒ですね」
乗車する予定の新幹線を待ちながら、山田がそう毒づく。
「まぁ~何だ、あそこの会社とは古くからの付き合いで色々と恩もあるしな~」
俺はあからさまに不機嫌な態度を隠そうともしない山田に向けて、宥めるようにそう話し掛けた………にも関わらず、山田は俺の言葉に何の反応も示さない。
「ま、観光旅行気分で気楽に行こうや。な?」
「………旅行なんかするよりは、適当な相手と気楽なセックスをしてイッてる方が良いですよ」
「変態野郎」
「アンタには、関係ない事だろ」
ついに、俺は“アンタ”呼ばわりだ。
本当に、可愛くない。
しばし、無言の時が流れる。
やがて、プルルルル………というベルの音とお決まりのアナウンスが流れ新幹線が到着した。
開いたドアの向こうへ、山田と二人………険悪なピリピリとした雰囲気のまま進む。
「席、ここですよ」
先に指定席を見つけたのは山田で、さっさと奥の席に座るコイツに、俺は
「………ああ、荷物寄越せ。上に置いてやる」
と言って腕を伸ばした。
「………」
山田は“ありがとう”も言わずに、窓の外に視線を向ける。
こういう事は、本来ならば後輩であるコイツの役目だろう。
憤慨しながらも、じゃあ実際に山田が俺に対してそんな風に気を遣っている姿なんか想像出来るわけもなくて、なんだか考えている内に可笑しくなって………俺は小さく笑った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 114