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不意打ちのキスをしてから、山田は決して俺の方へ顔を向けることなくじっと窓の外を見ていた。
やり過ぎたかな………と、反省をしつつもしたくなってしまったのだから仕方がないと結論を出して、これじゃあ理性のきかない動物と同じだなと自嘲する。
………無事、居酒屋に着いて乾杯の段取り。
「とりあえず生を………」
向こうの会社の一番若手っぽい青年が店員に注文しようとしているのを遮り、
「あ、すみません私は運転があるので烏龍茶で」
と断りを入れた。
最近は、どこも飲酒運転には厳しくなっている。
最初にこう宣言しておけば、無理やり飲まされる………なんて事はまず起こらないだろう。
「あっ、じゃ烏龍1に後は人数分ビールで………」
「はい、少々お待ち下さい」
喧騒と、熱気。
ガヤガヤと騒がしい店内、けれどそれに負けないくらいに大きな声の店員、そして笑顔。
「とりあえず長崎に来たんなら、ここへ来んと話にならん」
上機嫌でそう話す向こうの会社の上役に、
「人気のお店なんですね」
と、山田も笑顔で返す。
先程までの仏頂面とはえらい違いだ。
「はーい、お待たせです。生入りまーす!」
一際声が大きい店員が、お盆を使わず器用に大量のビールジョッキを持って現れる。
持ちきれなかったジョッキと烏龍茶のグラスもすぐ後ろに別の店員がお盆に持って来ていた。
店員任せにせず、我先にと進んで各々ジョッキを奥の席に座る人間に回していく。
てきぱきと手慣れた様子で当たり前にこういう事が出来る所に好感が持てる、と長崎へ出張に来た際にはいつも思う。
「グラス、回りました?えーっと、それじゃあ僭越ながらわが社の部長から1つ乾杯の音頭をお願いしますっ」
先程、店員に飲み物を注文していた若い社員が大きな声でハキハキとそう言って、皆の視線が一斉にその人物に向けられる。
ゴホン、と咳払いをひとつ。
対して代わり映えのしないお決まりの前置きをして、
「………それでは、カンパーイ!」
と、ビールジョッキを高々と上へ掲げた。
俺と山田は直ぐさま席を立ち、全員と笑顔でグラスを鳴らす挨拶をして回る。
それから、やっと自分の席に戻り愛想笑いを浮かべたままグラスを口に運んだ。
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