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新鮮なお刺身、人気店だと向こうの会社の人間が太鼓判を押す通り、運ばれてきた料理はどれもとても美味しかった。
「どう、ちゃんと食べとるね」
「はい、どれも美味しくてこれだけで長崎まで来た甲斐がありますよ」
年甲斐もなく顔を真っ赤にして、にこにこと上機嫌で話す相手はだいぶ出来上がっている。
「そんなら、よかよか」
嬉しそうに元から弛んでいた顔を更にくしゃくしゃにしてその人は笑った。
チラリと、俺は山田へ視線をやる。
俺が酒を飲まない代わりに、もうかなり飲まされてしまったようで愛想笑いをかろうじて保ってはいるものの呂律が回らなくなってきているようだ。
ここいらが、潮時だろう。
これ以上、無理をされていよいよ前後不覚になるまで酔い潰れてもらっては俺が酒を我慢して飲まずにいた意味がなくなってしまう。
「悪いけど、そろそろ出ないとホテルのチェックインの時間があって………」
俺は、てきぱきと動き回って食べ物のバランスやら空きのグラスをチェックして酒の注文を余念なく行っている若い社員にそう話し掛けた。
「あっ、もうそんな時間ですか。了解しました、一旦この場は締めましょう」
にっこりと笑って快くそう対応してくれるこの若い社員に好感を持つのと同時に、山田もこれくらい後輩らしく気を遣ってくれたらな………なんて。
まあ実際、今更山田にこんな風に下手に出られても嬉しいどころか居心地が悪いだけだろうが、それでも、せめて、俺にもさ………笑い掛けるくらい、してくれよ。
ジトッと、睨むような視線を山田に向ける。
そんな奴等に向ける笑顔の1%でも良いから、愛想笑いでも良いから、俺にも笑顔を向けてくれ。
「すみませーん、ホテルの時間があるそうなので1度ここでお開きにしましょーう」
パンパンと2回、女々しい俺の考えを打ち切るように手を叩く軽快な音と共に、若い社員がそう宣言する。
「では締めの一言を遠路遥々ここ、長崎までやって来てくれた小野坂先生より賜りたいと思います………どうぞ」
まさかの、無茶ぶりだった。
「あー、えーっと………明日も、お仕事頑張りましょう」
急な事にしどろもどろで締まらない台詞を言うと、
「はい、という訳でこれで飲み会は終わりです………なんてのは締まりませんね、課長いつものアレ、お願いします」
と、若い社員は課長を指名してさっさと座ってしまう。
「はいはい皆様、それではお手を拝借………」
ここぞとばかりに張り切って立ち上がった課長さんの音頭に合わせ、一本締めをする。
途切れる事のない拍手と笑い声を背にふらつく山田に肩を貸しながら、ペコペコと頭を下げてお先に失礼させてもらった。
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