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案の定、山田は既にロビーに居た。
「チェックアウト、早く済ませて下さい」
顎をしゃくって偉そうに先輩に指図するのだから、本当にコイツは大した男だよ。
「へー、へー。ちょいとお待ちを」
荷物を山田の側に置いて、急いでフロントで手続きを済ませる。
それから連れ立って車に乗り込むと、最初に向かうのは取引先の会社。
担当者と最後の打ち合わせと確認をして、両手で固く握手を交わすと頭を下げて引きあげる。
車の中で万が一の場合に備えもう一度、受け取りの書類に不備がないかを確認したら今度はレンタカーを返しに向かう。
「あーっと、スタンドって車屋の近くにあったっけか?」
運転をしながら、そう山田に声を掛けた。
「さあ?僕が知るわけないじゃないですか」
山田は窓の外に顔を向けたまま考えもせずに即答する。
「………ソウデスヨネー」
この場合、山田をアテにした俺が馬鹿なんだろう。
きっと、そうに違いない。
心の中で重く深い溜め息を吐きながら、ガソリンスタンドを見つけようとなるべく遠くの方までキョロキョロと忙しなく目線を動かす。
レンタカーは使った分のガソリンを満タンにしてから店に返却しなければならないってルールは、なんていうか本当に面倒臭い。
しかし、それがルールなのだから遵守する他はない。
眉を片方吊り上げてチラリと視線を走らせると、山田は必要以上にドアの方へ体を寄せていた。
きっと、前に不意打ちで車中でキスをしたのが不味かったに違いない。
隙あらばまた俺がそんな不埒な真似をすると思って警戒しているのだろう。
「山田ー、朝飯食ってないだろ?腹減ってねーか?」
「大丈夫です」
取り付く島もないとはこの事か。
「あー………ハイ」
どうしてコイツはこうも俺を冷たく突き放すのだろう。
昨夜はあんなに甘い時間を共に過ごしたというのに。
いや、もしかしたら………もしかしなくとも、そう思っていたのは俺だけだったという事なのか。
「………はぁ」
溜め息が洩れるのも、仕方がない。
晴れ渡る雲ひとつない青い空、新鮮な空気、そんな長崎の絶好のドライブコースを俺は鬱々たる気分で進んだ。
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