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逆らえない -5-
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私服に着替えていた興本に乗せられ、バイクで連れて行かれたのはコンビニだった。
「これに着替えな」
そう言って手渡された紙袋には、おそらく俺用に買ってきただろうパンツとシャツ。
「これ…」
興本を見れば、さっさと行けと目で訴えられた。
制服だとまずい場所にでも行くのだろうか。
俺は不安を覚えながらも、言われたとおりにコンビニのトイレで着替える。
それは新品ではない、けれどサイズ的には興本のでもない、誰かの服のようだった。
あまりいい気はしないが、仕方がない。丈がちょうどよかったのも、悔しく思う。
着ていた制服を紙袋に入れて出ると、興本がそれを奪うように手に持った。
再びバイクの後ろに座らされ、次に向かったのは小さなバーだった。
「井瀬は初めてだっけ?」
不思議そうに店を見ていた俺を見て、興本は気づいたように聞いてきた。
繁華街から少し離れた路地の一角にあるそこは、大きな看板があるわけでもない、こじんまりとした佇まいの店だった。
扉に小さく「Bar」と書かれているのを見て、ここがバーなのだと分かった。
まだ営業時間外らしく、窓の奥は暗く、人がいる様子はない。
「俺たち、まだ未成年…」
たばこを吸っている興本に言うのも今更だが、俺たち高校生が入る店ではないのではないか。
そう思って興本を見るが、彼は平然と扉に手を伸ばした。
「大丈夫大丈夫。まだやってねーから」
いや、やってないから、入るのは問題じゃないのか?
そう思いつつも興本が店の中に入ってしまうので、俺も後に続くしかない。
暗い店内は、けれどまだ外が明るいからか、中の様子を窺うには十分だった。
縦長のカウンター席と、個別の席が2つあり、それだけで一杯だというほどの、見た目通りの小さな空間。壁にはいくつかのポスターが貼ってあり、それらすべてが聞いたことのないライブの告知のようだった。
「店長ー、俺ー!」
興本が暗いカウンターの奥に声をかける。
すると中から、30代くらいの男性が出てきた。
無精髭を生やした、体格の良い人だった。鍛えているのか、胸板と腕の厚さが服の上からも分かる。
「おう、匠真か。今日は早いな」
声も低く、ワイルドな感じがする。
興本の下の名前で呼んでるから、よほど親しい人なんだろう。
「こいつと遊びたくて。隣の部屋、使っていい?」
そう言って興本が親指を俺に向ける。そこで初めて、俺はその人と目が合った。
「良いけど、すげぇ真面目そうなヤツだな。大丈夫なんだな?」
「ああ、問題ない。こいつ、俺の言うことは絶対だから」
な、と振り向いて言われ、俺はコクンと頷く。
興本の言っていることに間違いはない。
けれどその人は眉をひそめて、疑わしそうに表情を変えた。
「そいつ、意味分かって頷いてんのか?」
まぁ、普通に考えて、不良が平凡系男子を脅しているように見えなくもない。
それに俺には興本の言った「遊び」が分かっていないのも事実だ。
「店長、相変わらず初対面の人間には厳しいね。まあ、だから信用できるんだけど」
興本は少し苦笑して、肩を竦めて見せた。
「そんなに言うなら、店長も一緒に入ればいいじゃん」
そう言った興本に、店長さんの顔はますます難しい表情になる。
にやりと笑う興本と、難しい顔の店長さんと、まだ何をするか分かっていない俺と。
僅かな間に沈黙が流れ、最初に口を開いたのは店長さんだった。
「こいつが少しでも嫌がったら、締め出すからな」
諦めたようにため息を吐いた店長さんは、俺を少しだけ憐れむような目で見てきた。
それがなんだか少し怖くて、俺は思わず興本の裾を掴んだ。
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