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デート -3-
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見知った道を抜けて国道沿いに走り続けている。
街中の景色から次第に建物が少なくなり、普段あまり見ることのない田園風景が増えてきた。
カーブが段々と続いてきたかと思えば、いつの間にか山林の中にいた。
坂道を上って冷たい風が頬を打つ。
トンネルを一つ二つと越えていけば、一つ山を越えたようで緩やかな下り坂へと変わっていた。
トントン、と小さく興本が俺の手を叩く。
ずっと興本の背中にくっ付けていた顔を上げると、興本は前を向いたまま、小さく顎で左を示した。
「わー海だーー!」
横を見て初めて気づいた。
ガードレール越しに水平線が見える程の海が広がっていて、思わず声が出た。
声は風の音でかき消されたけれど、興本には伝わったらしい。興本の腹の前で組んでいた手を一撫でされた。
さっきまで気にも留めなかった潮の匂いが鼻をくすぐる。
山道を逸れるとすぐに港が見えた。
小さな商店や民家もすぐ近くにあったが、真昼間にもかかわらず人は数える程しか見当たらなかった。
小さな船が並んで浮かんでいるのを横目に走っていく。
しばらくして興本がスピードを緩め、改めて辺りを見渡すと小さな公園の看板が見えた。
そこの駐車場へとバイクを止める。
「昼飯にしよう」
軽い仕草で腕時計を見ながら興本が言った。
ヘルメットを外す興本に倣って俺もメットを外した。
さっきまで感じていた重力から解放されて、体がふらふらとする。
「何食べたい?」
俺からメットを受け取った興本が聞いてきた。
今度こそは俺からも、と思ったが、やっぱり何も浮かんでこない。
「何があるか調べていい?」
ポケットから携帯を取り出して地名と食事をキーワードに検索してみる。
さすがに何でも良いと言っては今朝の二の舞だ。それだけは避けたかった。
バイクから降りて画面を食い気味に見る俺に、興本は不意に頭を撫でてきた。びっくりして顔を上げれば、小さい子を褒めるように俺に手を伸ばしていた興本と目が合う。
「何か見つけた?」
「あ…うん…。近くに海鮮丼が美味しいソバ屋があるんだって」
ソバ屋なのに丼とはこれいかに。
そんなことはともかく、どうかなと伺いを立てるように検索結果の画面を興本に見せた。
口コミサイトで☆4つ近く獲得していたので、味に間違いはないだろう。
問題は興本の好みにあるのだが。
「美味そうじゃん。こっからだとちょっと距離あるけど、バイクは置いていくか」
良かった。興本の賛同を得られて安堵する。
興本も自分の携帯でマップを開いて、確認しながら歩き出した。
俺も並ぶように横に着いて歩いていく。
時折触れそうになる手を意識して、わざとポケットに突っ込んだ。
静かな町並みに、普段から会話の少ない俺たちは黙々と歩いていった。
特に目を引く建物があるわけでもなく、ただ来た道を覚えるようにして一つ一つの景色を眺める。
観光地でもないこの田舎の港町には本当に人が少ない。
そんな場所で二人で歩いているのがなんとも不思議に思えてきた。
「井瀬とこうしてるの、何か変な感じする」
どうやら興本も同じことを思っていたようだ。
「いつもエッチしかしてなかったもんなー俺たち」
「…そうだな」
そうか、だからか。俺はそこまで考えに至ってなくて、今更恥ずかしくなってきた。
男同士なのに、確かに俺と興本は会えば体を重ねてきた。というより、興本に呼ばれるときはそういう行為が目的になっていた。
少し俯き気味に視線を落とせば、まぁでも、と明るい調子で興本が言った。
「たまにはこういうのも悪くないよな」
興本を見上げれば、興本も俺を見下ろしていた。
「デートって感じで、なんか新鮮。手でも繋ぐ?」
悪戯っぽく笑って興本が手を差し出してきた。
驚きすぎて、ぼんやりと興本を見つめる。
「…男同士だぞ、俺たち」
「人いないし、大丈夫じゃね?」
何でもないようなことみたいにキョトンとする興本は、ポケットに突っ込んでいた俺の手を取り出して、本当に手を繋いできた。
俺は嫌じゃないけど、興本はどういうつもりなのか分からなくて困惑する。
「興本ってさ…」
無意識に口に出していて、慌てて噤んだ。
「ん?」
前を向いていた興本が俺の声に反応してこちらを向く。
「いや、何でもない」
「…もしかして照れてたりする? 井瀬ちゃん、可愛いねー」
見当違いなことを言って興本が笑う。
でも俺は本音を言えるわけもなく、否定することをしなかった。
興本ってさ、俺のことをどう思ってる…?
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