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デート -5-
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なぜか睨んでくる興本に俺は怯む。
でも言ってしまった言葉はなかったことには出来なくて。
「どういう意味? よく解らない」
さっきまでは美味しいものを食べてとても良い気分で、興本とも和やかな良い雰囲気だったのに、不用意な俺の言葉で今はこんなにも居心地が悪くなってしまった。
例え興本から促されたとしても馬鹿正直に言うんじゃなかった。少しくらい言い方を考えればよかった。
興本からの冷たい視線に半分泣きそうになりながら、激しく自己嫌悪に陥る。
「下見るな。ちゃんと俺を見て説明しろ」
自然と俯いていた顔を興本に無理矢理上げさせられた。
両頬を興本の手が包み込み、いつもなら嬉しくて抱き着きたくなるのに、今はこの距離がつらい。
「せっかくここまで来て、なんでこんなことになってんの、俺たち?」
「…だって、やっぱり、男同士で手を繋ぐのは…」
「普通はやらねーよ、俺だって。渡合とか十河と手を繋ぐなんて気持ち悪い。でも井瀬は違うじゃん。俺たちは普通の関係じゃないだろ」
言って、興本は俺に口づけた。
道のど真ん中でそんなことをされるとは思わなくて、目を見開いて驚いた。
重なるだけのキスは思ったよりも長くて、その間ずっと興本と見つめ合うことになった。
唇は離されても顔は両手で固定されたままで、逃げることもできない。
「なあ、俺が女の子の方が好きなのと井瀬と手を繋いだらダメなのと、どう関係あるわけ?」
キスもそれ以上もするのに、と低い声が耳の傍で響く。吐息まで感じる程の距離に俺の心臓は壊れたように激しく打ち付けている。
きっと今の俺は耳まで真っ赤だ。
「…っ、ダメじゃ、ない。けど…分からない。分かんないんだ…!」
泣きそうなっているだろう俺の不細工な顔を見てか、少しだけ興本の手の力が抜けた。
その隙に俺は思い切り興本の首に抱き着いた。驚く興本は一瞬体を硬くしたが、すぐに受け入れてくれた。目を閉じて興本の体温だけを感じれば、周りの目を気にする余裕はなくなっていく。
「だってデートとか、手を繋ぐとか、興本が俺を女の子みたいに扱うから、俺どうしていいか分からない。キスもエッチもするけど、今までこんなことしたことなかったのに、俺、俺…」
言いながら自分でも心のもやもやとしたものが段々と形になって分かってきた。
俺の戸惑いは、自分の立ち位置があやふやになっていくことへの恐怖だったのかもしれない。
今までは求められるものがエッチなことだけだったから、それ以外に気にすることもなかったけれど、こんなふうに普通の男女がするようなデートとか手を繋ぐとか、そういうことを求められると、俺は自分がどういう風に振舞えばいいか分からない。
友人として接するのだったらデートなんて単語は出てこないし、手を繋ぐなんてこともない。
でも俺たちは男同士だから、友人以上の関係を表す言葉を、俺は知らない。
関係を言い表すはっきりとした言葉を知らないから、興本の求めるものが分からなくて戸惑うし、困った。
面倒くさい奴と思われても仕方ないくらいに泣き言だって言ってしまった。
「ごめん、興本…。俺、女の子じゃないから、こういうの困る…」
全部胸の内を離した俺は少し落ち着いて、そっと体を離した。
ちらりと見上げれば、さっきまでの不機嫌な顔はなくなっていて、いつもの無表情に近いクールな目で俺を見ていたからほっとした。
「ばかだなー」
呆れたように小さく笑い、興本は俺の前髪を掻き上げて額にキスを落とした。
なんだか慰められているように感じて、俺はそのまま興本の胸へと飛び込んでしまいたくなった。
「お前はただ俺の言う通りにしてればいいんだよ。俺がこうしたら――」と興本が俺の手を取った。「井瀬はただ握り返せばいい」
だから言われたとおりに俺は黙って指先に力を入れた。
「そうそう。素直な井瀬は好きだよ」
興本は満足そうに表情を緩めて、手を繋いでいない反対の手で、くしゃっと俺の頭を撫でた。
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