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期末テスト -5-
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課題のプリントを終え、渡合の何でもない話を聞いているうちにすっかり長居してしまった。
ファミレスを出る頃にはネオンが明るく光り、行き交う人の様子も学校帰りの時とは明らかに変わっていた。
糸田と渡合、十河とは駅で別れて、興本は家まで送ってくれると言った。
今日はバイクもなく、二人で電車に乗った。たった二駅だから、あっさりと着いてしまった。
「井瀬の友達、完全に気付いてたな」
並んで歩く帰り道、興本は満更でもない顔で首元を摩りながら言った。何のことかすぐに分かり、俺は忘れかけていた羞恥心を思い出した。
「そ、そうだよ! 糸田めっちゃ見てた! 絶対俺だってばれてるじゃん」
トイレから戻って席に着いたとき、一瞬ぎょっとした糸田の顔を思い出す。あの状況で気づいたということは、絶対俺と興本の行き過ぎた関係にも勘付かれているということだ。言い訳のしようがない。
「誰がどう思うが別に良いんじゃね」
「興本はそうだろうけど…」
俺は明日も糸田と顔を合わすのだ。聞かれて、どう答えるべきなのだろうか。
「俺は隠すつもりないから、あとは井瀬次第だな」
むしろなぜ興本はそこまで堂々としていられるのかが不思議で仕方ない。
俺はそこまで赤裸々に言うつもりはなかった。
返す言葉に困って少しの沈黙が流れる。これ以上言っても興本の態度は変わらないだろうし、助言も期待できないから、話題を変えることにした。
「興本は進路、どうするの?」
ちらりと横目で興本の方へ視線を向けてみれば、今まで話題にしたことがなかったからか、興本もこちらを見ていた。
「…井瀬は?」
逆に聞き返されるとは思っていなかった。
少しは俺の将来に興味を持ってくれているのかと思えば嬉しくなった。
「俺は、大学に行こうと思ってるけど」
「けど?」
「興本は、どうなのかなって…」
興本の描く未来に、俺はまだいるのだろうかと、ふと不安になった。
普通の友達だったら、こんなことは思わないのかもしれないけれど。
「俺は就職したい。金貯めて、自分の力で家を出る」
「大学には行かないんだ?」
思いのほか強い語調で就職と言った興本に、少し驚いた。
興本が家族のことを嫌っているのは知っていたけれど、できれば一緒の大学に行きたいとほのかに思っていたところもあったから、ちょっとショックだった。
「勉強したいこともないし。いつまでも親の庇護下には居たくないから」
まるで家から逃げたいとでも言っているような口調で興本は前を見据えて言い切った。
「それに一人暮らししたらさー、好きなときに遊べんじゃん」
そう言った興本は厳しい顔を一転させて、目元を細め、一瞬だけ顔が近づく。
まだ人通りもある中で、それは本当に一瞬のことだったけれど、柔らかな感触が唇に触れた。
「…っ」
思わず手で口を塞いだ。
興本はニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべると、指先を絡ませるように触れてきた。
「井瀬も大学行ったらさ、家出ろよ。そしたらお互い好きなときに行き来できるし。あーでも、お袋さんの料理も捨てがたいけどなー」
今俺たちは人差し指だけ触れ合って、並んで歩いている。
興本は楽しげに話すけれど、それはどこかおとぎ話のような、現実感の持てない未来像だった。
「井瀬は料理できる?」
「やったことないけど…」
「俺の家に泊まるときは井瀬が料理作ってよ。お袋さんに教えてもらったらすっげー美味いのできるんじゃね。んでさ、掃除と洗濯もして、俺のこと待ってて」
「俺は家政婦か」
「あー、それも良いな」
「なんでだよ」
興本は楽しそうに笑って、そんなふうに笑う興本がなんだか寂しそうに見えた。
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