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期末テスト -6-
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次の日の朝、教室に入ると糸田は既に登校していた。
おはよー、といつもの挨拶を交わすけれど、興本のことには触れてこなかった。
だから昼頃になれば、すっかり気にしていなかった。
「今日は中庭で食べようぜ」
弁当箱を取り出して糸田が珍しく俺だけを誘ってきた。普段は教室で、糸田と俺とあと数人で机を囲んで食べていた。
真冬を越したと言ってもまだ肌寒い日が続くこの季節に、外で食べる人は少なくて、芝生の敷かれた中庭にも俺と糸田以外、女子3人の1グループしかいなかった。
きゃっきゃと何やら楽しそうにしている彼女たちの声を聞きながら、俺と糸田は向かい合わせに腰を下ろし、弁当を広げた。運動部の糸田の弁当は俺のに比べて大きく、まさに質より量、という感じのものだった。
「あのさー、聞きにくいんだけど…、やっぱ気になるから確かめたいというか…」
「うん?」
歯切れの悪い糸田は視線を逸らしつつ、話を切り出してきた。
「…井瀬ってさー、そっちの人?」
「え…。あ…、あー…」
一瞬何のことか分からなかったが、すぐに興本との昨日のことを言っているのだと気付いた。
そりゃあ、まあ、あれだけあからさまにキスマークを付けてトイレから出てくれば、糸田が気にならないはずはないだろう。
むしろ教室を離れて中庭まで連れ出すまで何も言ってこなかったのは、気を遣ってくれていたのだ。
ここまできて誤魔化すのも難しい気がして、話せるところまでは正直になろうと覚悟した。
糸田にばれたことを興本が知ったとして、おそらく以前興本自身が言っていたようにそれほど気にしないと思った。
「男だからっていうか、興本だから、かなぁ。普通にAVでも興奮するし」
興本は男だけど、普段性的対象として見るのはやっぱり異性だ。女の子は可愛いと思うし、魅力的に思う。自慰を教えてもらったのは興本からだったけれど、完全に抱かれるまでは一人で自慰をする時に想像していたのは女性の裸体が多かった。
「じゃあバイってことか…?」
「うーん、どうだろう。男が好きなわけじゃないし」
というかそもそも、男を性的対象として意識したことがなかった。興本との関係もなかなか強引に始まったから、やっぱり興本だからとしか言いようがない。
「根本的なこと聞いてもいい?」
「ん、なに?」
「井瀬と興本って、やっぱりそういう関係なの?」
気まずそうにしながらも核心の部分に触れてくる糸田は好奇心から聞いているのだろうか。その真意が分からず、けれど数少ない友人として俺は正直にいたかった。だからか緊張で少し声が震えた。
「糸田がどう思ってるかは分からないけど、…フツウの友達とは違うと思う」
恋人ではないけど、普通の友人でもない。セックスフレンドという言葉があるのは知っているけれど、そこまで対等な関係でもない。
「そっかー。…なんか、ごめんな。言いにくいこと言わせて」
糸田なりに納得することができたらしく、へらりといつもの笑顔を浮かべて、瞬時に空気を戻してくれた。
「いじめられてるようだったら、相談乗るから。話聞くだけしかできないかもしれないけど」
…んん? ちょっと誤解されている…?
「あ、ありがとう」
それでも興本との話ができる相手ができたことは嬉しかった。
「糸田も渡合達と仲良くなった?」
昨日の様子を思い返してみて、俺からも聞いてみた。人懐こい渡合のことだから、見た目に反してきっと糸田も気に入ってくれたと思う。
「ああ、うん。見た目チャラいし、取っ付きにくいかなぁと思ったけど、ノリも良いし、昨日は楽しかった」
そのことを確認できて、ほっとした。
「あっ、それでさ、井瀬と別れたあとも少し喋ってたんだけどさ」
何かを思い出したかのように糸田は言った。
「渡合、この前の中間で10点って言ってただろ」
「あー、言ってたね」
情けないほど泣きそうな渡合の顔がよみがえった。それをからかっていた十河の顔も同時に思い出した。
「そんで俺、勉強教えることになったんだ」
どうやら俺が思っていた以上に親しくなっていたようだった。
「井瀬も良かったら一緒に来ない? ていうかできれば、来てほしんだけど」
本題はここなんだけど、と糸田は割と真面目な顔で言ってきたので、俺は迷わず頷いた。
渡合達と糸田を合わせたのは、故意的でもないが俺のせいなのだから、断る理由もなかった。
俺が頷くのを見て糸田も安堵の笑みを浮かべた。
「良かったー。さすがに3人は間が持たないかなーって、家に帰ってから不安になってさ」
それもそうだなと同意する。糸田の気持ちはよく分かった。俺も興本が間にいるから、渡合と十河とも話せていると思っている。
「渡合達も、井瀬と興本とのことは知ってる…んだよな?」
「うん。興本が隠してないから」
「ふーん。なんか、あんだけイケメンなのにもったいないよなぁ。…あ、井瀬がどうとかじゃなくて!」
慌ててフォローを入れようとする糸田に思わず笑ってしまった。
糸田の言いたいことは充分すぎる程に分かっている。
俺自身がつくづく不思議に思っている。興本はなぜ俺なんかを相手にしてくれているのかと…。
「まあ、とりあえず、今週の土曜日に渡合んちだから。学校終わったらそのまま一緒に行こうぜ」
そう言ってそれからは、他愛ない話で昼時間が終わるまで中庭にいた。
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