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期末テスト -7-
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土曜日はあっという間にやってきた。
その間に授業と補講と家でのテスト勉強を繰り返し、興本ともメールでのやり取りだけで、直接会ったりすることはなかった。
待ち合わせ場所はこの前のファミレスの前だった。
学校は3時間目までだったから、昼飯を食ってから渡合の家に行くことになっていた。
渡合たちの学校は土曜日は休みなので、こちらの都合に合わせてくれたらしい。
聞けば、渡合の家までは電車を乗り継いで少し歩くとのことで、思ったよりも離れていた。
渡合いわく、駅の数で言えば3駅ほどしか離れていないから、十河の家よりはずっと近いようだ。
ということで今、俺と糸田は制服姿で待っていた。
「おーい、井瀬くんと糸田!」
相変わらずチャラい私服姿の渡合と原色多めで少し派手な十河がやって来た。興本の姿はなかった。
「あれ、もう一人は?」
糸田が手を挙げて渡合に応え、興本の姿がないことを聞いてくれた。
「ああ、あとで来るから。心配しないで、井瀬くん!」
始めは糸田に答えていた渡合は、なぜか最後は俺の方を見て言った。
「あ、うん。大丈夫」
何の心配かは分からず、特に何も思わなかったので返事も適当になってしまった。
「あはは、井瀬くん淡々としすぎ。まじウケる!」
興本愛されてないなー、と十河が言い、渡合と二人で爆笑した。
そんなことないよ、と否定するのもなんだか可笑しな気がして何も言えなかったけれど。
そんなふうに、主に渡合と十河が賑やかに前を歩き、俺と糸田はその後ろに着いていくという形で歩きながら、渡合の家へと向かった。
電車を乗り継いで、降りたのはターミナル駅にも近い大きな駅だ。
そこから商店街を横切って、裏道的な小さな道へと逸れていく。そこから角を曲がれば、新しそうなマンションが建っていた。渡合たちはその中へと入っていくから、おそらくここに住んでいるのだろう。
エントランスを抜けてエレベータへと向かった。
「オレんち、結構遅くまで人いないから、気楽にしていいよ」
10階のボタンを押して渡合が言った。
「そうそ。こいつの両親共働きだし、兄貴も家出てるんだっけ」
「十河はよく来るんだ?」
糸田が聞けば、十河はニッと笑って「俺らの溜まり場」と答えた。ということは、興本と3人でよく来ているのだろうと想像できた。
「俺んとこはボロアパートで騒げねーし、興本は入れてくんねーしな」
そしてあっという間に10階へとたどり着いた。
渡合の部屋は玄関からすぐ横で、渡合らしく漫画やら服やらゲームやらでごちゃごちゃとしていた。3人でよくここで遊んでいるという光景が目に見えるようだった。
「散らかってるけど、ま、テキトーに座って」
「なんで十河が言うんだよ。その通りだけど!」
ぷりぷりと怒りながらも渡合はいったん部屋を出て、ジュースやお菓子を持って戻って来た。
ベッドの上は脱ぎ捨てられたスエットや読みかけの雑誌がそのままになっていて、その手前に小さなテーブルがあった。そこにも漫画や携帯ゲーム機が置かれていたけれど、教科書やノートと言った勉強道具は壁際の勉強机に無造作に置かれたままで、いかに手に取っていないかが分かった。
がさがさと邪魔なものを隅に追いやって、開いた空間に腰を下ろした。
「とりあえず何から始める? 英語?」
糸田が今日のプリント鞄から取り出した。俺も倣って英語と数学のプリントを机に出した。
十河はスピーカーの電源を入れてスマホに接続し、音楽を鳴らしだした。いつもやっているのか手慣れた様子で渡合の私物だろうそれを操作していた。
流れてきたのはアップテンポなロックだった。十河の好みの選曲なのだろうが、どう聞いても勉強向きには思えなかった。
怖くて「消して」なんて言えない俺は小心者だ。
渡合と十河もテーブルを囲むようにして座り、薄い問題集を出してきた。やる気はあるようでどこか疑っていた俺は内心で安堵した。
「オレは数学教えてほしい!」
問題集を広げて見せた渡合の手元を見て、俺と糸田は思わず顔を見合った。
同じ学年のはずなのに思ったより前の単元で、高校での授業の進み具合がこんなにも違うのかと思い知らされたのだった。
渡合が分からないと嘆き、十河がうんうんと唸っている間に時間は経っていたようで、渡合が持ってきた菓子袋が一つ空になる頃に、興本が遅れて到着したらしい。
渡合の携帯に着信が鳴り、通話を終えてから5分もしないうちにインターホンが鳴った。
渡合が立ち上がって出ていけば、すぐに興本が姿を見せた。
「おーやってる、やってる」
テーブルに広げられた教科書やプリントを見て、感心したように興本が言った。
俺と目が合った興本は少し目を細め、そのまま俺の横に腰を下ろした。
「十河、そっち寄って」
「はいはい」
無理矢理に俺の横に座ったので、十河と糸田が僅かに体をずらさなければならくなった。
「興本は何を勉強するの?」
何も持っていない興本に思わず尋ねた。興本は軽く俺の頭を撫でて頬杖を突いた。
「俺は井瀬の勉強を見てあげようと思って」
そう言いながら俺の短い髪を指先で梳く。
「おいおい、俺らはー?」
不満げに十河が声を上げるが、興本は答えずに俺の手元に視線をやった。その目は真剣で、けれど何も言わずに再び俺の顔へと視線を戻し、再び俺の髪を弄りだした。
どうやら間違っている箇所はなかったようだ。
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