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幕間 -隣室にて-
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side:渡合
興本と井瀬くんが部屋を出ていってしばらくすると、小さな声が漏れ聞こえてきた。
「あー、始まった」
独り言のように十河が呟くが、糸田はどう反応していい変わらない様子で目をキョロキョロさせている。ちょっと面白い。
でも今はその反応を面白がっている場合ではないのだ。
「やばいー、兄貴にどつかれるー」
「汚れても洗えば気づかれないんじゃないの。そんなに頻繁に帰ってきてんの?」
頭を抱えるオレに十河が指で突いてくる。うざい。
「いや、年に2,3回くらいだけど。オレがちょっと漫画借りてもばれるんだよなー。あと中学の友達が泊まった時もばれて怒られた」
「じゃバレるかもなぁ」
「他人事か!」
「他人事だし」
顔を上げて睨みつけても十河は飄々とテーブルに出している菓子を食っている。
「つかさ、興本は何が良くて井瀬くんなんだろう」
お、おう…。十河ってたまに空気読めない発言するよね。
それをわざわざ糸田に言うかなー。困っちゃってんじゃん、糸田が。
「顔とかじゃないよな。だって井瀬くん普通だし。塩系?」
「さ、さあ…。俺は興本が男を選ぶって方が不思議だけど」
糸田、別に真面目に返答しなくていいよ。
でも真面目に返しちゃうのが糸田なんだなー。良い人だ。
「そうか? 興本、結構その辺アバウトだから普通に受け止めてた」
「えっ。てことは井瀬以外にも…?」
「俺が知ってるだけだと3人だな。女はもう数えてないけど」
「う、わー…そうなんだ」
糸田の反応は驚いているのか感心しているのか引いているのか、うーん、微妙なところだな。
「井瀬くんには内緒だからな」
オレが言えば糸田はコクコクと頷いた。
「まあ、あそこまで執着しているのは男も女も合わせて井瀬くんだけだけどさ」
「興本は井瀬が好きってこと?」
糸田の質問は初歩的なことで、盲点だった。あんまそんな風に見たことなかったな、そういえば。
なんでだろう、ってちょっと思い返してみたら、興本が井瀬くんのことを今まで隠してきてたからだ。オレたちはあんまり興本と井瀬くんの関係を知らない。
十河もオレも首を傾げるしかなかった。
こういう時は話を変えるよね。
「そういう糸田は彼女とかは? いないの?」
男3人で恋バナとか、寒いなーと思いつつ聞いてみる。普通に興味あるし。
「いや、いないよ。部活ばっかだし」
「何部?」
「野球部」
「っぽーい!」
「坊主だからだろ」
糸田は自分の頭を撫で上げて笑った。笑うと目が一本線になって、なんか可愛い。
…男に可愛いは可笑しいか。
「ずっとその髪型なん?」
「野球部入ってからずっと。でも引退したら伸ばすよ」
「あ、引退ってやっぱ夏? 甲子園行っちゃう?」
高校3年の甲子園、っていうフレーズだけで熱いよな。燃えるよな。
「いやいや、うちは全国レベルじゃないから。まあ、夏の予選は出るけどね」
だからそれまで、と言った糸田はまた笑う。
「髪がある糸田、超見たい! 中学ん時の写真とかないの?」
今はのっぺりな感じだけど、髪があったら意外にイケメンだったりして。
「卒業式のが残ってたかな…」
糸田の携帯から見せてもらったどこか初々しい糸田は、やっぱり今より全然幼くて可愛い。
「うーん、普通だな」
十河が淡々と感想を口にする。
うん、普通だった。井瀬くんの方がまだ顔が丸いから可愛い感じがするけど。
「何を期待されてたの、俺は」
携帯をしまいながら糸田は苦笑した。まあ、糸田からすれば失礼極まりないよな、と勝手に反省。
「ってことは糸田童貞?」
言ってから気づいた。あ、オレも空気読めない発言しちゃったね、今。十河のこと言えないじゃん。
「え…、いや…、」
まさかの否定語にオレと十河は身を乗り出して驚いた。
「えっ、えっ? その反応はまさか…?」
童貞でもないのに二人が出ていった時にあんなキョドってたの? ピュアなの?
「そ、そういうお前らは…あー、いや、聞くまでもなかった。ごめん」
糸田は言い返そうとして早々に諦めたようだ。まあ、オレらは見た目がチャラ男とヤンキーだしな。そんなつもりはないけど寄ってくる奴らがそんなんばっかだから、さすがにどう見られているかは自覚している。これで童貞とか笑っちゃうよな。
「あ、コイツまだだから」
「何さらっと言ってくれちゃってんの? ばかなの?」
「え、渡合、まじで?」
ほらもー、糸田引いちゃってんじゃん! 可哀相な子を見る目でオレを見ちゃってんじゃん!
「笑うなら笑えよ、ばかやろー!」
「笑わないよ」
そう言ってテーブルに突っ伏す俺の頭を撫でてくる糸田はなんなの? オレって慰められてんの?
「ていうか俺ら、興本達が戻って来るまで待ってなきゃいけない感じ?」
そんなこんなでオレがテンパっている間に、十河が課題は終わったからと片付けだして、オレは顔を勢いよく上げて焦った。
だってここオレんちだし。
十河と糸田に帰られたら、情事後の二人とオレ一人で対面するのは超気まずい。
興本はどうでもいいけど井瀬くんとは超気まずい。
「え、待ってようよ! 漫画あるしゲームあるし! 勉強終わったんならオレに教えてくれても良いし!」
「勉強見るなら糸田だけ残ってもらえればいいじゃん。俺今日バイトだから。一回家帰るわ」
そんなー!
と嘆きつつもバイトだと言われてしまえばオレには何も言えなかった。
だから俺は糸田に抱き着き、一人にならないように必死にしがみ付く。
「糸田ー! 糸田はオレを見捨てないよな!?」
「う、うん…」
「良かったな。じゃ、俺帰るな」
十河の薄情者はそう言ってさっさと帰ってしまった。
ったく、自由すぎんだよなー! 興本も十河も!!
「とりあえず、勉強の続き、する?」
「…糸田、良い奴だな」
泣けてくるぜ、まったく。
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