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新しい友達 -5-
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「おはよー、井瀬!」
俺よりも遅くに登校してきた宗田は、席に着くなり爽やかな笑顔と共に挨拶をくれる。
新学期1日目にして交友関係を深めようとしてくれた宗田は、あの日からも相変わらず俺に声をかけてくれていた。
最近は「一緒に遊ぼうぜ」という宗田の言葉が真実味を増してくるほどの距離感になりそうで少し怖い。
「おはよう」
「あーまじ眠いわー。昨日ゲームしすぎたー」
言葉とは裏腹にその表情は楽しそうで、机に伏せる宗田をなんとなく眺めていた。
「狩りに行ってたの?」
ここ数日で分かったのは、宗田は見た目に反してゲーマーらしい。眠そうにしてくる日は必ずゲームの話をしていた。部屋に籠って黙々と作業をする宗田というのは中々に想像し難かった。
「昨日は女の子を攻略してた。あ、井瀬はこういうの引く?」
「俺、ゲームはよく分からないから…。宗田ってそういうゲームもするんだ?」
現実でも女の子にモテているのに、2次元でもモテようとしている宗田の思考はよく分からない。
「ゲームで手を付けてないのは脳トレと数独くらいかなあ。井瀬は興味ないんだもんなー?」
「う、うん…」
「趣味とかないの?」
聞かれて一番困る質問をされた。
俺には収集癖もなければ追いかけているものもない。本を読んだりテレビを見たり、映画やドラマを楽しんだりするのは好きだけれど、特にこれ、というものは思い浮かばなかった。
「特にはないかな」
「ふーん…」
我ながらつまらない人間だと思う。
それでも、だからと言って自分の好きなことを強要してこない宗田は、結構良い奴なのかもしれない。たいていは、自分の好きなことを進めてきたりするものだ。
ちらりと教室の時計を見た。まだチャイムが鳴るには少し時間があった。
「話は変わるけどさ、昨日、井瀬を見たんだよね」
先ほどゲームの話を楽しそうにしてた口調とは少し変えて、宗田が言った。
昨日は興本と会っていた日だ。
「一緒にいたのって、友達?」
どこか硬い宗田の口調に感化されたのか、少しだけ緊張が走った。
「友達だよ」
どうして宗田がこんなことを聞いてくるのか分からないけれど、なんとなく嫌な感じがした。
「俺、井瀬の友達、知ってるかも」
「…え。と…」
「中学、一緒だったかも」
かも、なんて曖昧な語尾のくせに、宗田はじっと俺の方を見てきていて。
何かを見極めようとしている視線に俺は僅かに手を震わせた。
「おーい、ホームルーム始めるぞー」
いつの間にか鳴っていたチャイムに気付かず、俺は不意に聞こえた担任の声に思わず驚いた。
日直の号令と共に朝の挨拶をし、出席確認と簡単な連絡事項が行われた。
その間当然ながら宗田は前を向いていて、俺も隣を気にしながらも視線を向けられなかった。
それでも、それもホームルームの間だけだった。
担任が教室を出て再び少しのざわつきが起こる中、宗田は視線を前に向けたまま言った。
「井瀬がアイツと友達とか信じられないけど、仲良さそうだったよね」
独り言のように呟いた宗田は、今度こそこちらに顔を向けてきた。
横を向くとじっと見てきた宗田が、にこっと笑った。友人たちに見せる爽やかな笑顔だった。
「詳しく聞きたいなぁ」
何を、と聞くまでもなく宗田は笑顔で続けた。
「どうやってアイツと仲良くなったの?」
顔は爽やかなのに、言い方はとても嫌な感じだ。
「教えてよ」
「…」
答えない俺に宗田は体を寄せてそっと囁いた。
「――興本だろ、昨日の友達って」
興本の名前を言われて、俺はどうしていいか分からなくなった。
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