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「宗田のことはよく分からないけどさ、興本との関係のことは興本に相談してみても良いんじゃないか?」
二人の問題でもあるんだし、と糸田が言った。
本当にそうだろうか。興本に話したところで、という感じがしないでもないのだけれど。
だって俺はただの興本の玩具みたいな扱いをされているだけで、俺が困っているからと言って興本が助けてくれるとは限らない。それは興本にとっては何ら影響がないところでの話だからだ。
たぶん興本はきっと俺との関係を周囲に知られたって困らないし、だから渡合や十河、顔なじみの店の店長さんにも堂々と俺を紹介していた。
きっと興本に話したところで興本が困ることは何一つなくて、言うなれば俺だけに不都合な問題だ。
それに対してわざわざ興本が助言をしてくれるとは思えなかった。
「そう…かなぁ」
だけど糸田は少しだけ俺と興本との関係を勘違いしている。だから興本に相談すれば、という発想ができたんだと思う。
今一つ俺が疑心しているのが腑に落ちていない様子で、糸田は「そうだよ」となおも勧めてきた。
「いや、むしろ相談すべきなのは俺じゃなくて興本だったんじゃないか」
俺と興本が対等な関係ではないことを知らない糸田は、俺が煮え切らない返事を繰り返したせいで段々と強気な口調になって来た。
「もういっそ、ここで今から連絡取れば? 俺も一緒にいてやるし」
挙句の果てにはそんなことまで提案してきて、半ば強引に俺から携帯を取り上げてしまった。
「え、まじで。うわ、ちょっと!」
わーわーと騒いでいる俺の目の前で糸田はついにコールボタンを押していた。
耳に携帯を当てて完全に電話押している糸田を前に、俺はおろおろとするしかなかった。
「…あ、興本? 俺、糸田だけど」
どうやら興本と繋がったらしい。
俺は頭を抱えて机に伏した。
黙って糸田と興本のやり取りを聞いていた。
「ちょっと話があって。……え? ああ、今目の前にいるけど。……あ、そう? ……分かった。……おう、じゃあ」
通話を終えたらしい糸田が携帯を返してきた。
それを受け取りながら体を起こす。
「興本、なんて?」
「今から来るって。俺、興本来る前に帰らないと」
そう言って立ち上がる糸田に俺は慌てた。
「えっ、なんで。一緒にいてくれるんじゃないのかよ」
縋るように見上げれば、困ったような顔で糸田は言った。
「さっき電話で先に帰ってろって言われたからさぁ。興本の不機嫌な声ってめっちゃ怖えな。俺、ビビって途中何も言えなかった」
ええー!
不機嫌な興本なんて普通に最悪じゃないか!
「それなら猶更居てくれよ! 俺だって怖えよ!」
「やだよ! 俺怒られたくないし」
「裏切者!」
「まじでごめんって! 明日ちゃんと話聞くし飯奢るから!」
そう言って自分だけ会計を済ませてそそくさと糸田は帰っていった。
興本が姿を見せたのはそれから間もなくしてからだった。
「おう、ちゃんと待ってたんだな。偉い偉い」
太々しくもあくどい笑みを浮かべてやってきた興本は、何か不穏なオーラを身に纏っているように見えた。
その声音は糸田の言う通り、紛れもなく不機嫌さを滲ませていて、普段よりもずっと低かった。
「さーて、井瀬チャン」
俺の座っていたテーブルの前までやってくると、トン、と手を突いて顔を寄せてくる興本に俺は恐怖しか感じなかった。
「糸田を使ってでも話したいことって何かなぁ?」
不機嫌さもだけど、明らかに怒りまでもを含んでいるような声音を聞いて俺は軽くパニックに陥っていた。
「…っ、なんで怒ってるの…」
まずはそうだ、興本の怒りを鎮めなければ、と頭の端で思ったのだろう。自然と出てきたのはその言葉だった。
もしかしたらお楽しみのところを邪魔してしまったのかもしれないし、たまたま虫の居所が悪かったのかもしれない。どんな理由があったにせよ、俺を使って解消できるならどうか怒りを鎮めてほしかった。
「ああ? 別に怒ってねぇよ」
いや怒ってんじゃん。
……言えないけど。
「つか俺のことはどうでもいいよ。話って何?」
椅子を引き、長い足を投げ出すようにしてどかっと座った興本は、睨み付けるように俺を見てくる。
「俺が聞いてんだ。答えろ」
それは命令で、絶対な言葉だった。
いくら怯えていても逆らってはいけない言葉だ。
俺はちらちらと視線を行ったり来たりさせながら、窺うようにして口を開いた。
「実はちょっと、相談したいことがあって」
「……相談?」
その真意を探るように興本は、さらに目を細くさせて表情を厳しくした。
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