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トライアングル -8-
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宗田には怪しまれながらもなんとか通常通り授業をこなし、放課後は宗田と一緒にBarへとやって来ることができた。
問題は何と言って宗田を誘い出すかだったが、悩んだ挙句正直に「興本と会ってほしい」と言ってみれば、すぐに宗田は察しがついたらしく即答で承諾した。
興本がいない状態でBarに行くのは初めてだったけど、なんとか迷わずに到着することができた。
インターホンがないので、軽くノックをしてからドアを開ける。
「興本?」
ドアは簡単に開き、部屋を見渡せば既にソファで待機していた興本が居た。
「おう、入れよ」
興本の声に促されて俺が先に部屋へと入り、宗田はそのあとに続いた。
「本当に興本なんだな…」
後ろで宗田の独り言ともとれる呟きが聞こえたが、俺はそれには何も答えずに興本と向き合うように立った。
「あの、こっちが宗田。興本と同じ中学だったんだって」
とりあえず改めて宗田のことを紹介してみるが、宗田の様子を窺えば、その表情は少し強張っているようにも見えた。興本が睨み付けるように怖い顔をしているからだと思う。
「まあ、座れば?」
ソファは興本が座っているものしかないけれど、テーブルのサイドには椅子が二脚ほど置かれている。その内の一つを興本は顎で指した。
宗田が向かい合うように座るが、俺は興本に手を引かれてソファへと腰を下ろした。
「それで? 井瀬と俺との関係…だっけ。それを聞いてお前はどうしたいわけ?」
前置きもなく興本が話を切り出す。俺の心臓は悪い意味で速さを増した。
「…興本って男もイケるって噂あったからさ、もしかして井瀬ともそういう関係なのかなって思ったんだよね。だって興本と井瀬ってタイプ違い過ぎて接点なさそうなのに、友達って違和感ありまくりだし」
顔は強張ったままだけれど、意外にも宗田の口調は軽かった。あの音楽準備室で言い寄られたことを思い出して、俺は隠れるようにして興本の袖を握っていた。
「違和感と捉えるのはお前の勝手だろ。それとも、お前は男に興味あんの?」
「男に興味はないけど、井瀬のことは気になってる。興本のお気に入りならなおさら、興味あるね」
「ふーん。こいつのどこが良いの」
興本がそれを聞いた途端、宗田は強張った表情から一変して笑みを浮かべた。
話の雲行きが怪しくなっている気がするのは俺の気のせいだと思いたい。
「それは興本がよく知ってんじゃない? 顔は普通なのに、なんか可愛いよね。懐いてくれたら従順そうだし。でも興本が気に入ってるってことはエッチも上手いのかな。エロい子も好きだよ、俺」
…はっ!?
もう完全に俺と興本がエッチしてる前提で話してんじゃん!
事実だけど、話が違うぞ興本! なんで否定してないんだよ、ばか!
ぐいぐいと興本の袖を引っ張るものの、興本は何も反応してくれない。
「俺は可愛くないし、え、え、えっちとかしてないから!」
だから俺が思わず叫んでしまった。
「ちょっと黙っとけ」
なのに興本に睨まれたのは俺だった。なぜ。
「……ごめん」
俺がすぐに謝ると、宗田は一瞬呆けたあと、なぜか笑いだした。
「はっ、あははは…! なに、井瀬って興本に弱みでも握られてるの? 脅されてるの? 二人の関係ってそういうこと?」
なんだか違う方向で宗田は勘違いをしてくれたようだ。
興本もそれに気づいたらしく、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前がどう思ったのかは知らねーけど、井瀬は俺の言うことには絶対だ。俺の物だからな」
「ああ、そういう意味でお気に入りってことか。じゃあ俺が間に入っても問題ないよな? 興本と井瀬の関係に俺は関係ないし」
「男には興味なかったんじゃないのかよ」
「でも井瀬には興味あるって言ったじゃん。二人が付き合ってるとかだったら身を引いたかもしんねーけど、セフレですらないんなら問題ないだろ」
横恋慕とか面倒くさいのはしない主義だから、と言う宗田に対して、俺は内心焦りまくった。
え。ええ? じゃあ素直に言ってたら良かったってこと? むしろ恋人だという嘘の方が良かったってことなのか? ええぇ?
困惑する俺が興本の眉間の皺が更に深くなっていたことに気付いたのは数秒後のことだった。
がんっ、と勢いよく興本が長い足を蹴り上げて椅子ごと宗田を倒したからだ。
「俺も言ったはずだよな、井瀬は俺の物だって。俺の所有物なんだ、勝手に手ぇ出して良いわけあるかよ」
低く唸るような声で興本が言い放つ。
倒された宗田は驚きとは別の何かで顔を青くし、よろよろと上半身を起こして興本を見上げた。見上げた先の興本はと言えば、ゆっくりと立ち上がると宗田の前で屈み、顔を近づけた。
「井瀬も男だ。なんだかんだ言ってお前、男の味を知りたいんだろ? 俺が教えてやるよ」
興本は俺には聞こえない程度の小声で何かを囁き、宗田の顔面はもはや蒼白だ。
「井瀬、お前は先に帰ってろ」
突然振り返りもせずに興本が俺に向かって指示をした。
「え?」
「俺とこいつ、二人でたっぷり話付けるから。早く帰れ」
「う、うん…」
出された指示に従うことは当然で、俺は訳も分からずに部屋を出た。
出る瞬間、一瞬だけ振り返った二人は動かず、言葉も発していなかったけれど。
なぜか宗田のことが哀れに見えた。何を言われたのかは分からないけれど、宗田の顔に血の気がなかったからだ。
本当は中での様子が気になったけれど、帰れと言われたので俺は聞き耳を立てることもなく、足早に帰路へとついたのだった。
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