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巻き込まれる -4-
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糸田のことを可愛いと評した宗田は、翌日から早速アプローチを始めたようだ。
というのも、いつもはクラスのグループで集まっている昼休みの時間に、俺についてきて3年2組へとやって来たからだ。言わずもがな、2組は糸田のクラスである。
「あれ、宗田は食堂じゃなかったっけ?」
強引に後をついてきた宗田に尋ねればにこやかにコンビニのビニール袋を掲げて見せてきた。
「いーじゃん、いーじゃん。俺も一緒に食いたい」
そしてそれは勿論糸田たちの疑問でもあり、同じことを尋ねられ、同じように答えていた。
「お前らはいつも弁当なの?」
「まあな。つか、宗田こそそれで足りるん? おにぎりしかないじゃん」
袋から出てきたのは具違いのおにぎりが3つと500mlのペットボトルが一本だけである。女子か、と誰かが突っ込んだ。
「足りなかったら休み時間にカップ麺食ってる」
お湯は食堂に行けば入れられるので、普段はそうしているということだろう。
「糸田の卵焼き美味そう! これとおにぎり交換してくんない?」
宗田は目敏く、糸田が箸を付けようとしていた卵焼きを見つけて、自分のおにぎりを差し出した。
さすがにおにぎり一個と卵焼き一切れでは分が合わないと糸田も思ったらしく、おにぎりは断っていた。
「いや、おにぎりは別にいらねーけど。食いたいならやるよ」
「まじで!? サンキュー」
そう言って大きな口を開けた宗田に、糸田は何の疑いもなく卵焼きを箸で掴んで宗田の口へと運んでやっていた。
おそらく、この中で宗田の真意に気付いているのは俺だけだと思うと、居た堪れない。
思わず視線を逸らしてしまった。
「うまっ! 糸田んちの卵焼きってちょっとしょっぱめなのな」
ちらりと見やった宗田は嬉しそうに満面の笑みだ。
「そうか? あ、宗田のとこは砂糖入れる派?」
「さあ? 卵焼きの作り方とか知らねーけど。卵焼きに砂糖って入ってんの?」
宗田は初耳だと言わんばかりにキョトンとしている。
「たまに甘い卵焼きとかあるよ。たぶん、そういうのには入ってると思う。俺んちは入れないけど」
「へー。糸田って博識」
「いや、普通じゃね?」
卵焼き一つで博識と言われた糸田は少し戸惑い気味だ。それでもニコニコと話しかけてくる宗田に答えながら、他愛のない会話を続けている。
「なあ、宗田の奴、どうしたんだ?」
宗田と糸田が二人で話しているのを見守っていた二人が、こっそりと俺に耳打ちしてきた。それももっともな問いだと思う。
「糸田と仲良くしたいらしいよ」
まさか真意を言えるわけもなく、俺は無難な答えを口にした。これも嘘ではない。
「急に?」
一人が聞いてきたが、俺が何と言おうかと考える前にもう一人の奴が代わりに答えてくれた。
「急にでもなくね? クラス替えした時からそんな話してたじゃん」
そう言えば俺が持ちかけた相談でもあったな、と今頃になって思い出す。
「あー、そういえば」
その時とは明らかに目的が変わっているのだけれど、そこを正す必要はないだろう。
俺も適当に頷いておいた。
そうしているうちに昼飯を食べ終え、宗田は自然な流れで糸田と連絡先を交換し始めた。そういうところは卒がないと言うか手慣れているというか、流石だなと感心した。
「じゃあ部活が休みの時は遊びに行こうぜ」
教室を出るときにはそんな約束も取り付けており、糸田はよく分かっていないながらも了承の意を示していた。宗田は満足そうである。
「お前、すげーな」
教室に帰る廊下で、俺は思わず本音を漏らしていた。
「え、何が?」
きっと宗田ほどのコミュ力がある奴には、俺の感嘆の意味は理解できないだろうと思う。
そして俺はそんな宗田を羨ましくも思うのだ。
「あ、糸田と遊ぶ時はとりあえず井瀬も強制参加な」
「なんでだよ。二人だけで行けよ」
「は? 恥ずかしいだろうが!」
糸田に卵焼きを食べさせてもらっていた男とは思えないセリフを吐く宗田に、俺は首を傾げた。
「男同士で何を恥ずかしがるんだよ」
「だって糸田だぞ」
「たかが糸田だろ」
こう言っては何だが、糸田も俺と大して変わらない平凡な容姿の男である。
「井瀬にとっちゃ『たかが』かもしれないけど、俺には違うんだって」
「俺には自分のチンコを簡単に触らさせられるのに?」
小声で意地悪く言えば、途端に宗田は顔を真っ赤に染めた。
「ばか! そういうこと言うなよ!」
そう言って慌ててトイレへ駆けこんでいった宗田は、きっと下半身の処理をしに行ったんだろう。
なかなか可愛いところもあるらしい。
「糸田も大変だなー」
あんな奴に惚れられて。
俺は友人の前途を憂いながら、そんな風にまっすぐに想える宗田を、やっぱり羨ましいと思うのだった。
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