アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
巻き込まれる -8-
-
ジュースとお茶を交互に飲みながら宗田の相談に付き合っていると、すっかり時間が経ってしまった。
宗田もドリンクバーだけを頼んだが、席を立ったのは一回だけだった。
それでもまだ行き先を決めかねている。一応候補は二つにまで絞れたのだが。
「そんなに優柔不断だったっけ」
ああでもないこうでもないと唸っている宗田を呆れつつ見ていれば、ぎろりと睨まれた。
「井瀬は他人事すぎ! 糸田の好みも知らないとか使えなさすぎ」
「......」
野球部に休みはほとんどないので、糸田と休日に出かけたことがない俺は、確かにこの手に関しては何の役にも立っていないのだけれど。それでも宗田の言い方にカチンと来るものがあって、黙って睨み返せば、宗田は気まずそうに視線をそらした。
「ごめん、言い過ぎた」
素直に謝れるのは宗田の長所ともいえる。だからこそ憎めないのだ。
「本当のことだしな」
ズズっとわざと音を立ててお茶を飲み干す。
「やっぱ遊園地にしよ。いいよな?」
「おう」
ようやく決めたらしい。決めたのはここからも近い遊園地だ。規模は小さいが、お化け屋敷は有名なプロデューサーが手掛けたとかで、結構地元では有名な所である。
「はあ。やっと決まったー。楽しみだなぁ」
携帯にへばりついていた体勢を正し、背筋を伸ばした宗田の表情は晴れ晴れとしていた。
見てるこちらまで楽しい気分になるのは、やっぱり宗田の持つ人懐こい雰囲気と表情のせいだ。
少しの間、宗田のおかげで俺の沈んでいた気分もやっと上向きになれた気がする。
何も考えずに思ったことをそのまま言葉にできる相手がいるということは、こんなにも気が楽だったのか。
「じゃあ、日曜は駅前に朝10時集合ってことで」
早速糸田と有働にメッセージを送っている宗田をぼんやりと眺めつつ、考えるのはやはり興本のことだった。しばらく連絡のないことにどんな意味があるのか俺には分からないけれど、なんだか心がざわついて仕方がない。
俺から興本に連絡を取ることに何の意味もないことは分かっているから、俺はただ待つしかないのだ。
「そういやさー、最近興本と会ってる?」
メッセージでの会話が続いているらしく、ポチポチと指を動かしながら、世間話でもするかのように何でもない調子で宗田が聞いてきた。
「いや。会ってない」
それがどうしたのかと答えれば、こちらをちらりとも見ずに宗田は言った。
「俺、この前興本見たんだけど、めっちゃ美人と一緒に歩いててさ」
「へえ」
興本が誰と一緒に歩いていようと俺には関与することではないので、相槌を打つことしかできない。
「人妻って感じの年上美女。美魔女?っていうの、ああいうの」
そういえば、中学時代の噂にもそういう相手がいたというものがあったな、と思い出す。
「母親にしては若いし、姉弟にしては年離れすぎだし。そもそも腕組んでたし、家族って感じでもなかったからどういう関係なのかと思って見てたらさ」
なんだか段々と鼓動が早くなっていく。宗田が不自然なほど視線を上げないのも、俺の気持ちを乱している要因なのではないだろうか。
「入っていったんだよなぁ。...ホテル街に」
「……へぇ...」
「相変わらず節操ねーよなー。俺、もう相手は井瀬だけだと思ってたから、びっくりしてさ」
そこでようやく宗田は俺の方へと顔を上げた。
糸田とのデート先を選ぶ時よりも真剣な表情だったから、俺は思わず顔を強張らせた。
「なあ、お前らってどうなってんの?」
付き合ってるわけでもない。けど友人でもない。体だけの関係というには、興本の執着が尋常じゃない。
宗田の言いたいことは俺の思うそれと一緒だった。
「そんなの...」
俺が知りたい。
ただ、一つだけ言えるのは。
「どうもなってない。興本の節操がないのは昔からだし、俺がそれに干渉することはないよ」
干渉することは許されていないから。
俺と会っていないときに興本が別の誰かの相手をしていることは、今までも当然あったことだし。
むしろ俺がある日を境にその中にふっと入り込んだだけのことで、興本が毎日違う相手と会っていたとしても、それは昔から変わらない興本の”日常”なのだ。
俺が視線を下げたことで、宗田の視線が俺に鋭く突き刺さる。
けれど宗田はそれ以上何も言ってこなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
62 / 114