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グループ交友 -1-
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忘れていたが、俺たちはもう高校3年なのだ。
高校の最終学年である。
作戦会議と称された宗田による相談会の翌日、朝のホームルームで渡された進路調査票によって現実に引き戻された。
「一週間以内に提出するように。これで決まるわけじゃないから、とりあえずで良いぞ。あと、相談はいつでも乗るから気楽に声掛けろよ」
担任が言葉を締めて教室を出ていくと、途端にざわざわと教室内が騒がしくなる。
それもそうだ。自分の進路も悩ましい問題だが、他人の進路も気になるのは誰だって同じだ。
担任の説明の通り、1回目ということもあって具体的な学校名とかではなく、とりあえず進学が就職か、という程度の区別だけで良いらしいので、俺はさっさと記入して机の中に仕舞った。
「一週間か…。とりあえず来週の月曜まで保留だな」
隣の宗田は俺とは別の意味で調査票を机の中に仕舞っていた。
それを目敏く見つけた後ろの席の奴が宗田へと声をかける。
「宗田、どうしたんだよ。迷ってんのか?」
保留の意味を聞かれた宗田は体ごと後ろへ振り返った。
「俺は今それどころじゃねーんだって。とりあえず日曜までは進路のことで悩んでる暇ないの」
「日曜? 日曜になんかあんの?」
すると宗田はよくぞ聞いてくれたとばかりににやけた顔を見せた。
「日曜は俺の決戦日だからな! なあ、井瀬!」
「俺に振るなよ…」
あ。つい本音が。
どうも宗田相手だと心の声が口に出てしまう癖があるようだ。不思議である。
だから嫌だということもないし、宗田もそんな俺の口調に憤怒するわけでもないので、ついつい気持ちも緩んでしまうのだろう。
「え、なんで井瀬?」
ほら、至極まっとうな質問が飛んできた。
俺がここで言ってしまうのは簡単だが、そうすると宗田にとっては都合が悪いだろうと肩を竦めて見せるだけにしておく。
「井瀬は俺の盟友だからなぁ。日曜の遊園地はよろしく頼むぜ!」
「えっ! 遊園地!? 宗田、日曜に井瀬と遊びに行くんか!」
「おう! だから今は進路のことなんて考えてる余裕ねーの!」
「えー! 宗田くん、遊園地行くのぉ! 私も行きたい~!」
驚いたクラスメイトの声とそれに応える意気揚々な宗田の声に反応して、近くの席の女子が会話に交じって来た。
そこで宗田はハッと気づいた顔をしたが、すでに後の祭りだ。
俺はそれを呆れて見ていた。
「なになに~? 宗田くんと遊びに行くの? わたし行きたい!」
「だめだめ! 日曜はお前らと遊んでる場合じゃないんだって」
「だって遊園地でしょ~、大勢で行った方が楽しいじゃん!」
集まって来た宗田の友人たちの内、一人の男子が首を横に振る宗田を見て何かに気付いたように声を上げた。
「もしかして彼女とデート...とか? 宗田今フリーとか言ってたのに、いつの間にできたんだよ」
「えっ、そうなの!?」
少なからずも宗田に気を持っていたらしい女子がショックを隠し切れていない様子で問うも、宗田は苦い顔をするだけで何も言えないでいた。それもそうだ。相手が男だなんて言えるわけもない。
「いや、井瀬も行くって言ってたから、デートではないんじゃないか」
おい、それは俺にも彼女がいない前提での理屈だよな。ちょっと君、それは俺に失礼だろう。
真実なので、言い返すことはしないけれど。
「違うけど、他のクラスの奴もいるし…。やっぱお前ら来んのナシ!」
「なんでよ~! 宗田くんノリ悪い~。宗田くんの友達ならうちらともすぐ仲良くなれるって」
積極的な女子の言葉に宗田はダメダメと頑なに断っているも、多勢に無勢で完全に宗田に分が悪そうだ。
こういう女子の勢いに俺は口を挟むこともできず、ただ事の成り行きを見届けるしか為す術はなかった。宗田よ、許せ。
宗田の助けを求める視線を受け止めつつ、それはできないことを俺も視線を返して訴える。
もともと女子との接点が薄い俺が、ここで何かできるわけもないことを分かってほしい。
そして宗田と主に宗田に気がある女子との攻防は1時間目の始まりのチャイムが鳴るまで続き、チャイムが鳴っても終わりは見えず、仕方がないと一時休戦して2時間目の休み時間に持ち越された。
その攻防は昼休みにまでもつれ込み、とうとう宗田が折れて結末を迎えた。
肩を落として意気消沈した宗田は、そのまま2組へと向かった。それでも糸田と昼飯を食べることは決まりのようで、俺もそのあとを追う。
「もうやだ…。なんでこうなった…」
盛大なため息を吐いた宗田の肩を軽く叩く。
「当日は糸田と一緒に回れるように協力するからさ」
泣きそうな宗田を見て慰めになるのか分からないまま、今俺に言えることはこれくらいしか見つからなかった。
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