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月曜日 -2-
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教室に入るとまだ宗田は登校していなかった。普段からホームルームが始まる直前に来ることが多いから然程珍しいことでもない。
空席のままのそこを見ながら自分の席に腰を下ろすと、後ろから声をかけられた。
「おはよ。昨日は大丈夫だったのか?」
宗田のいない所で声をかけられたのはあまりなかったので驚いて振り向けば、昨日一緒に遊園地に行った奴らの一人だ。そう言えば俺は突然遊園地から帰ってしまっていた。どう言い訳するべきか一瞬では思い浮かばず、曖昧に頷くしかできなかった。
「ああ…。まあ、うん。ごめんな、途中で帰って」
「いや、それは良いんだけどさ。体調の方はもう大丈夫なのか?」
眉根を下げて心配そうに言われ、そこで俺はようやく体調不良で帰っていたことになっているのだと気付いた。糸田が上手く誤魔化してくれたのだろう。
「あ、うん! もう全然! 他の皆にも謝っておいてくれると助かる」
「それなら良かった。皆にも言っとくよ。急に帰ったからびっくりしたぜ。宗田もすげぇ心配してたし」
「そうなんだ…。ありがと」
気の良い奴で良かった。いつもは宗田を介してでしか話したことがなかったから、こうしてサシで話すのは初めてだ。
宗田の友人というだけでチャラい奴とかしか思ってなくて悪かったな、と心の中で反省した。
と、そこへようやく宗田が教室へ姿を現した。
「おはよー! あっ井瀬! 学校に来て平気なのかよ」
真っ先に俺の体を気遣ってくれるあたり、本当に心配をかけてしまっていたようだ。なんだか少し良心が痛むが、真実を打ち明けるつもりはない。
「うん、一晩寝たら治ったみたい。ごめんな、何も言わずに帰って」
「いやいや、俺はいいんだけどさ…。…まあ、でも重症じゃなくて良かったよ」
少し言葉尻を濁しながら、それでも良かったと笑う宗田にどことなく違和感を覚えた。何かあったんだろうか。
「宗田の方は? あの後糸田とは…」
何かあったとしたら宗田に影響を与えそうなのは糸田くらいしか思いつかなかった。だから思ったままに糸田の名前を出して聞いてみると、宗田はあからさまに狼狽え出した。
「あっ、あの後って? 別に普通だったぜ。普通に、楽しんだよ」
これは嘘だな、と誰が見えても分かる答え方に呆れてしまう。ただここでは言いたくないんだろう、とそれ以上は口を開かないことにした。タイミングよく担任が入って来たのを目の端で捉えたからということもある。聞くタイミングを逃しつつ、これはどこかで聞かなければという気がした。
休み時間になるたびに誰かしら宗田の元へやって来る。いつものことだが宗田の人気ぶりにはただただ驚かされるばかりだ。
特に昨日は遊園地に遊びに行くという大イベントがあったばかりなので、話題は専らそのことで持ちきりだ。
だからというかなんというか、俺が口を挟むまでもなく昨日俺が帰った後に何があったかというのは彼らの口から自然と語られ、俺はそれらの情報を並べてるだけで推測するには容易かった。それは主に女子達で大変盛り上がっていた中での情報ということが、少し引っかかることではあったけれど。
発端は1時間目が終わった10分休みの時だった。
「井瀬っち体調大丈夫だったぁ?」
女子の一人がそう聞いてきたので、「大丈夫だよ。ありがとう」と笑いながら答えるも、いつの間に俺は「井瀬っち」になったのかと聞きたい衝動にかられる。
「あの後連れてきた渡合君と十河君、二人とも超イケメンだったよね~」
さらりと名前が出てくるあたり、即席にしてはよく交流できていたようだ。渡合は見た目通りのチャラ男らしく、コミュニケーション能力の高さを発揮したようだ。
「ノリも良かったしめっちゃ楽しかったね~。連絡先聞いとけば良かったぁ」
「あの子知ってるんじゃない? ほら野球部の」
「あー確かに! でもあの子の友達って超意外じゃない? 全然タイプ違うし~」
いつの間にかあの野球部は誰だと言う話になり、その彼にべったりだった宗田に矛先が向かう。
だが当然のことながら、宗田は不機嫌さを隠しつつ「教えない」の一点張りだ。元々が爽やかな顔立ちをしている上に、にっこり微笑まれれば気の強い女子とて強くは聞き出せないようだった。
俺としては宗田の内面がとても変態だということを知っているので、そういえば宗田も見てくれだけはイケメンの部類に入るのだと改めて知ることになった。だからと言って俺には何の得にもならないし、むしろ余計に腹立つことではあるけれど。
「お前ら、あんだけ一緒にいて交換もしてなかったのかよ」
昨日一緒にいた男子の一人が思わず突っ込みを入れれば、ここぞとばかりに女子たちに非難された。なにこれ女子怖い。
だが、とりあえず渡合と十河は本来の目的は成功させてくれたようだ。
それでも連絡先の交換を誰ともできなかったのは、たぶん女子のせいだけではなく渡合のヘタレ具合が原因だろう。
そう言えば渡合は全然モテないという話をしていたのを思い出した。もしかするとモテないのではなくモテ方を知らないだけではないだろうか、という疑惑が俺の中で浮上して、おそらくそれは確信に近かった。
それから次の時間での話題は、あのイケメン2人は誰かということになった。
チャラくてヤンキーな二人を連れてきたのが地味で真面目そうな坊主頭の野球部くんということで憶測が憶測を呼び、そしてそれは宗田自身もとても気にしていたようで、俺以外の全員であーだこーだと言い合っていた。二人のことを知っている俺としてはとても愉快で楽しかったけれど、身になる話ではなかった。
そして午前中最後の休み時間は移動のためあまり聞けなかったけれど、廊下での会話を要約すれば、結局最後まで渡合と十河は宗田達と一緒に回って遊んだだけということだった。
当初の計画では女子だけをナンパして宗田と糸田から切り離す作戦だったのだが、俺が帰ったことを筆頭に成功とは言えなかったようだ。
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