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風邪 -2-
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特に会話もなく公園まではあっという間に着いてしまった。
「じゃあここで。ちゃんと帰れよ」
公園の入り口前で足を止めた興本は、体調不良を感じさせないほど普通の調子で、小さい子供にするように俺の頭を数回優しく叩く。
「分かってる。興本も…」
興本に対して〝気をつけて〟という言葉が出そうになって、それはなんだか似合わないなと口にするのを躊躇った。
変に途切れてしまった俺の続きを待つこともなく、興本は止めていた足を再び進める。俺は黙ってそれを見送った。直線の道を進んでいく興本の背中をしばらく見届けてから、俺もくるりと体の向きを変えた。
けれど俺は元来た道を辿るのを止めて、誰もいない小さな公園に入る。
このまま家に帰れば、駅に向かったにしては早い帰宅に怪しまれるかもしれない、と悪知恵が働いたのだ。だから興本がココまでと指定した公園で時間を潰そうと思っての行動だった。
だが如何せん何もない小さな公園だ。ベンチと平地と滑り台が一つあるだけの場所で俺ができることと言えば、ベンチに腰掛けることの一択だけだ。
ポケットに突っ込んできた携帯を取り出して時間を確認し、小さく息を吐く。
それを繰り返して3回目、まだ10分ほどしか経っていないことに溜め息しか出てこない。おそらく普通に歩いていれば、ようやく駅から折り返した所だろうか。
俺はいよいよ暇になって、携帯でアプリを起動させた。最近ダウンロードしたゲームアプリだ。パズルを解いて敵キャラを倒すという内容で、課金まではしていないが、暇があれば動かす程度にはやりこんでいる。とは言いつつレベル的にはまだまだで、あと2ステージクリアすればようやく2つ目のランクに進めるところだ。ちなみにネットで検索してみたところ、ステージは期間ごとにその都度追加されているらしく、最近始めたばかりの俺が追いつくには途方もないほどの時間が要りそうだったので、無駄に焦らずのんびり進めていこうと思っている。そう言えば次のランクに進めば新しく見れるストーリーが解放されるのだった。どうせならこの公園で進めてしまおうか。
そんな風に携帯に意識を集中させていると、不意に声をかけられて驚いた。
「…何やってんの?」
「っ!」
こんな人通りの少ない場所で声をかけられるとは思っていなくて声が出ないほど驚いた。顔を上げたその先で、声をかけてきたのが誰だか分かった時には心臓が止まるかと思った。
「ちゃんと帰れって言ったよな?」
そこにいたのは先ほど別れたばかりの興本で、辛そうに顔を顰めながら俺の隣にドカっと腰を落とす。
ポケットに両手を突っ込んで足を組む興本は辛そうにしながらもどこか様になった格好で、これがイケメン効果なのかと一瞬自分の状況を忘れて見惚れてしまった。
「あ…いや…」
「ほんと、今日の井瀬は聞き分け悪ぃな。何、反抗期なの」
「う、ううん。違う。反抗とかじゃなくて」
違う違うと起動していたアプリを閉じながら俺は慌てて首を横に振った。
「早く帰り過ぎても母さんが変に思うから、時間潰しに」
「なんだそれ…」
俺の言い訳に僅かに笑った興本は、それでも熱が上がってるのかその息は荒い。
「興本こそ何してるんだよ。やっぱり辛い? 母さんに言って泊まって行った方が良いんじゃないか」
「うん、そうだな…」
母さんが興本を保護者の元へ帰そうと思うのも当然なのだろうけど、きっと興本の環境は母さんが思っているよりも興本に優しくないのだと思う。こんなになっても家に帰ろうとしない興本の家庭環境を俺は知らないけれど、それだけは分かっていた。
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