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風邪 -5-
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ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。
風邪を引いた興本を送り出しに家を出たはずなのに、風邪を引いた俺が興本に連れられて自宅へと戻っている。
朝、ラブホテルから興本と一緒に帰宅すると、連絡もせずに朝帰りをした息子を母さんは泣きながら叱った。
「遅くなるなら遅くなるで連絡の一つも入れなさい! 朝も戻ってこなかったら警察に通報してたわよ!」
いつもの外泊とは状況が違って、俺も昨日は駅まで送ってすぐに帰るつもりだったから、母さんの心配も理解できた。頭も痛かったけれど心も苦しくなった。
「ごめん…」
ついでに興本も怒られていた。興本もまさか母さんに泣いて怒られるとは思っていなかったようで、始終申し訳なさそうに大人しくしていた。
興本が誰かから怒られているところを初めて見た俺はなんだか新鮮でつい見入ってしまったのだが、その様子を見た母さんにもう一度怒られて慌てて部屋へと戻った。
「悪かったな、井瀬。また連絡するから」
自分のベッドに潜ると、母さんに怒られた後の興本が部屋までやって来て、それだけを言うと帰っていった。
母さんはスポーツドリンクとヨーグルトを机の上に置いていったあと、仕事へと出かけた。
父さんもいつの間にか仕事へと出ていた。
その日は学校を休み、一日中寝ていた。
次に目を覚ますと日が傾いていた。どうやら夕方までしっかり寝ていたらしい。
汗で体が気持ち悪いが、頭の中は靄が晴れたようにすっきりしていた。
そう言えば興本も風邪が治ってすぐにシャワーを浴びていな、と自分の今の状況を照らし合わせて思い出した。
俺もそれに倣ってシャワーを浴び、汗を流した。
部屋に戻ってしばらく触っていなかった携帯を手に取る。
ズボンのポケットに入れっぱなしだった携帯には宗田と糸田からそれぞれメールが届いていた。
興本からのメッセージはなく、少しだけがっかりとしながらも、ベッドに寝転んでメール画面を開いた。宗田からは休んだことへの心配と、昼休みに一人で糸田のクラスへ行ったこと、そして放課後に糸田を映画で誘うことが書いてあった。
糸田からはその後の時刻に、宗田から映画に誘われたことが送られてきていた。糸田からの文面から察するに、宗田は俺と糸田と3人で映画を観ようということにしたようだ。意気地なしめ。
時間を見て、まだ糸田は部活中だろうと予測して、宗田の方から返信を考える。
ぽちぽちと携帯を弄っていると、窓の外からバイクの音が聞こえてきた。
この辺りは閑静な住宅街なので、車の行き来もほとんどなく、エンジン音はよく響く。だから珍しいなと気づいていたが、特に気にしなかった。
そこへ携帯のメール画面が着信画面に切り替わる。
興本の名前が出て思わず体を起こした。
考える間もなく受話器ボタンをタップする。
『井瀬? 寝てた?』
興本の声だ。
「いや、起きてた」
『良かった。今家の外。出て来れるか』
慌てて窓の外を見れば、バイクに跨った興本が携帯を耳に当てながらこちらを見上げていた。
「すぐ降りる」
携帯越しにそう言って、一階まで駆け下りた。
こんなに立て続けに興本が姿を見せるなんて今までもほとんどなかった。
今朝は確かに「また連絡する」とは言っていたけれど、こんなにも早いとは思っていなかった。
勢いよく玄関を開ければ、バイクから降りた興本が俺の前にやって来た。
流石に着替えてきたようで、今朝とは違うTシャツとジーンズ姿だ。
「顔色、だいぶ良くなったな」
俺の頬を撫でて興本が笑う。
心配してくれたのかと胸が高鳴った。
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