アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
風邪 -7-
-
「…ふふ。かーわい」
まっすぐに見上げる俺を見下ろして、興本は穏やかに笑った。
ぎゅっと背中を抱きしめて、俺の肩に興本の頭が乗る。
「興本、お前まだ熱があるんじゃねーの」
急に甘い雰囲気を出し始めた興本に俺は動揺して、それでもなんとか興本の腕の中で大人しくするように努めた。
「そうだね、あるかもね」
そう言って興本は俺を抱きしめたままごろんと床に倒れ込んだ。俺も一緒にごろごろと丸太の様に転がる。
「機嫌治ったのか?」
俺の肩に顔を埋める興本の背中に腕を回して、撫でるように摩る。すると興本はもっとと強請るように俺を抱く腕に力を込めた。ちょっと苦しい。
「うん、治った。井瀬のおかげ」
「それは良かった」
悩み過ぎて思考がおかしな方向に行ってしまっただけだろう。
興本が何に悩んでるのかは分からないけど、とりあえず俺は捨てられなかったらしい。そのことに安堵して俺は興本の胸に頬を擦り付けた。
「井瀬さぁ、大学に行くならマジで俺と一緒に住もうぜ」
「うん、分かった」
「ほんとかよ」
興本は喉の奥で笑う。目の前の喉仏に噛み付きたくなった。怒られるからしないけど。
「興本が良いなら」
自分のテリトリーに入れないのは興本の方だから、口だけの誘いでも俺は嬉しくて何も考えずに答えていた。でも本当になったなら俺は喜んで着いていくだろう。
「興本はどうするの。前は就職とか言ってたけど、本当に進学しないのか」
「進学するのは金掛かるじゃん。親の世話にはなりたくねー」
「奨学金使えば?」
「内申点がなぁ」
ああ。真面目に学校に通っていない興本に期待できる内申点など皆無らしい。他校である俺でも納得してしまうくらいには、興本はちゃんと不良だった。
穏やかに流れる時間の中で、ふと疑問に思っていたことを聞いてみる。
「そういえば、なんで遊園地に来たとき機嫌悪かったんだ?」
無理矢理渡合に連れてこられたから機嫌が良くなかったのかとも思ったけれど、興本は最初から俺を見ていた。だからきっと俺が理由なんだと思うのだけれど、興本に対して何かをした覚えはないから不思議だった。約束を反故したわけでもないし、連絡を無視したりもしていなかったはずだ。
顔は見えないけれど、興本は俺の肩にぐりぐりと頭を押し付けて甘えてくるから、あまり言いたくないことなのかもしれない。
「…井瀬が女といるって言うから」
それは今まで女の影がなかった俺に対しての嫌味かな?
「俺以外の男といるのも面白くねーのに、女もいるってどういうことだよ」
「あれは不可抗力なんだ。俺は宗田に頼まれて着いていっただけで」
「ソウダ?」
誰だソレは、と肩から顔を上げた興本は俺を見下ろす。
既に忘れられている宗田を哀れに思いつつも、一度会せたことがある宗田のことをもう一度説明してやる。
すると意外にも興本はすぐに思い出せたようだ。
「ああ、初めて男に掘られてアンアン啼いていたヤツか」
宗田にとっては恥ずかしすぎる思い出し方をした興本に俺は何も言えなかった。
「アイツまじで井瀬の害でしかねーな。もっかい啼かせるか」
「やめてあげなよ。今は糸田に夢中なんだから、他のヤツを当てるのは可哀想だろ」
「あ? 糸田がどうしたって?」
これも宗田にとってはトップシークレットなのかもしれないが、興本の前で俺が隠せるものなんて何もないのだ。躊躇うことなく俺の口は宗田の糸田への恋心を暴露する。
ついでに今度、宗田が糸田を映画デートに誘っている話をすると、興本は意地悪い笑みを浮かべた。
俺は少し喋り過ぎたかな、と思いつつも、興本がなんだか楽しそうなので、宗田のことはどうでもよくなってしまった。
「俺たちもしようか、映画デート」
「…え?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 114