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Wデート -1-
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興本が宗田達と一緒に映画を観に行くと言い出した。
俺に反対する理由はなく、翌日学校へ言ってそのまま宗田に伝えようと思う。
「おう、風邪大丈夫か。やっぱり月曜もまだ体調悪かったんじゃね」
いつもの如くホームルーム直前に席に着いた宗田が俺の顔色を窺う。日曜日のは仮病だったが昨日休んだのは本当に風邪だったから、宗田の言い分に頷いた。
「そうかも。それよりさ、メールで言ってた映画のことだけど」
「あ、それな。…糸田、試合が近いからって今月は休みないんだって」
なぜか宗田は俺の耳とに顔を近づけて、内緒話をするように小声で言ってきた。よっぽど遊園地のことがトラウマになっているのかもしれない。
「ふうん。じゃあいつ行くの? 来月?」
「来月は期末あんじゃん。だから期末前の部活休みん時に決めた」
「決めたって、糸田がそれで良いって言ったのか」
糸田は見た目通りの真面目な奴だ。部活が休みだからと言って期末前に映画を観に行くなんて本当に了承したのだろうか。勉強を一緒にしようと誘った方が確実に受けてくれる気がするのだが。
そんな風に意外に思って驚いていると、宗田がふいっと視線を落とした。
「いや、俺の中で決めただけだ。まだ日にちについては糸田と話してない」
なんだ。びっくりした。
ということは、これから糸田に話すということか。そこで糸田が頷いてくれるかどうかは宗田がどれくらい説得できるかにかかっている。
「そっか。頑張れ」
「それをさ、井瀬から糸田に言ってくれないか」
「え?」
え?
「いやいやいや。そこは宗田が誘えよ」
なんでそこで俺が出てくるんだ。ここが宗田の踏ん張りどころだろう。
しかし宗田は情けない表情で視線を落としたまま顔を上げようとしない。よっぽど自信がないのだろうが、この前までのやる気はどこ行ったんだと問い質したい。
「俺が誘うより井瀬が声掛けた方が糸田は素直に来てくれると思うんだよな。ほら俺、遊園地の件でちょっと引かれてるから」
よっぽどクラスの女子に巻き込まれたことが堪えているんだろう。でも月曜日に弁当を一緒に食った感じでは、宗田に対してはそれほど悪い態度を取っていなかったと思う。糸田が引いたのは女子達による圧力だから、むしろ宗田の思い出はあまり残っていないんじゃないだろうか。…あれ。それはそれで宗田にとっては良い傾向とは言えないな。
いやいや。それでもやっぱり、ここで俺が出てくるのはおかしいだろう。
「糸田は優しい男だから、頑張って誘えば一緒に来てるれると思う」
お前は糸田のどこに惚れたんだ優しく男気ある性格だからじゃないのか、と言おうとして、そういえばこいつは糸田に一目惚れだったな、と思い直して口を噤んだ。同性ということは置いておいても、顔と雰囲気だけで糸田を選ぶ宗田の審美眼は興本と同じくらい少しずれていた。
糸田を卑下しているわけではない。糸田も俺と同じ平凡な男子高校生だ。一目惚れすることはあってもされることは限りなく少ない容姿なのだ。
それでも糸田に惚れたことは宗田にとっては当たりだとは思っているけれど。糸田にとって宗田が当たりかどうかは俺には分からない。宗田は良い奴なんだろうけど変態だ。大事な糸田を預けるのには不安があるのが本音だった。
だから俺は何としてでも宗田から糸田を誘ってほしい。
「宗田、自分の気持ちは自分で伝えるのが男だろ」
口先でなら何とでも言える。俺は宗田を焚きつける。
そんな俺の本心を知らない宗田は、神妙な面持ちで顔を上げた。
目の前にはいつの間にか担任が立っていて、ホームルームが始まっていた。
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