アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Wデート -3-
-
宗田に付き合わされて放課後、糸田が部活を終えるのを待つ。
その日の宗田は朝からそわそわしっぱなしで正直気持ち悪かった。
柄にもなく緊張しているのが隣の席には丸分かりで心配するほどだったが、流石に本人の前では上手く隠し、昼休みはいつも通りに平然と2組で過ごしていた。
「あぁ、走ってる糸田可愛い。あ、送球ミスった、後輩かな。でもフォローする糸田かわいい」
後輩君、送球ミスって致命的じゃねーか。
部活が終わるまではグラウンドが見える教室の窓から野球部を見下ろし、宗田は一々声に出してははしゃいでいる。
立ち上がって窓に張り付いている宗田の横で、俺も誰か知らない席に座って窓の外を眺める。
ちゃんと見たことはなかったけれど、大きな声を出して練習に励む野球部はまさに”青春”を体現しているようだ。ノックする生徒の後ろでジャージ姿の女子2人がボールを拾ったりお茶を準備したりと忙しそうに動いているのが見える。野球部は男だけの集団かと思っていたがそう言えば女子マネージャーがいたのか、と改めて発見した気になった。
「あのポニーテールの女子マネの方が可愛くない?」
「ん? なに、井瀬はあーゆー子が好みなんだ。興本に怒られるぞ」
「いや、俺の話じゃなくて」
宗田の方を見上げれば既に興味を失ったように、また糸田を目で追っている。その顔は目じりを下げて愛おし気な表情を浮かべていた。女子より糸田かよ、と呆れを通り越して感心した。
それから2時間ほどたっぷりと部活見学(遠目)を堪能した後、野球部が片付けに入ったのを見て宗田もそろそろと窓から体を離した。
「糸田、お疲れ~」
更衣室から出てきた糸田を宗田が捕まえる。その後ろに俺は着いて出た。
「うわっ、びっくりした。え、待ってたのか」
他の部員たちに声をかけてから一緒に帰ってくれる糸田は純粋に驚いているようだった。
それもそうだろう。今日の昼休みもそんな話はしていなかった。
「うん。この前話してた映画観に行こうってやつ、予定立てたくて。糸田が部活頑張ってるところ見てたんだ」
今朝までの緊張なんてかけらも見せなくて、宗田は楽しそうにニコニコと笑顔で糸田の隣に並ぶ。こういうところは流石だな、と後ろから見ながら思う。
「そっか。なんか待たせて悪かったな」
「ううん! 俺が好きで見てただけだから!」
何だろう。宗田の気持ちを知っているからなのか。普通の会話なのになんだか恥ずかしい。
俺はなんで一緒に帰ってるんだろう。いやマジで。
「それで行く日なんだけどさ、期末の前の日曜日とかどうかな。部活はもう休みに入ってると思うんだけど」
「あー、うん、いいよ。予選も終わってるし、行けると思う」
「まじで! 良かった! じゃあ日曜日、この前と同じ駅で待ち合わせな」
「おう。俺と宗田と井瀬の3人?」
「そのつもり。あ、でも加藤とか有働とか、糸田が誘いたいんだったらそれでもいいけど」
おっと、ぼんやりと歩いていればいつの間にか人数の話になっていた。俺は後ろから慌てて口を挟む。
「それなんだけどさ、興本も一緒に行きたいって言ってるんだ」
宗田と糸田の肩を掴んで無理矢理二人の間に入る。
「え」
発した言葉は二人とも同じだったけれど、糸田はキョトンとして、宗田はあからさまに眉根を寄せて嫌そうな表情を浮かべた。
「なんでそこで興本?」
表情を見る限り糸田の方は問題がなさそうなので、俺は宗田にだけ聞こえるように小声で言った。
「興本がWデートしようぜって言ってた。ただ友達として映画を観たいわけじゃないだろ?」
本当は俺と興本が一緒に映画を観てデートになるのかと言えば疑問なのだけれど、俺の本音を伝えるよりも興本の言葉を借りた方が宗田には効果的なように思えた。
そしてそれは正解だった。
明らかに宗田の目はキラキラとし出し、そういうことならと嬉しそうに頷いた。
「しょうがねぇ。じゃあ俺と糸田と井瀬と興本の4人で行こうぜ」
全然仕方ないとは思っていない笑顔で強がる宗田に、糸田は少し不振がりながらも特に異論はなかったようで「分かった」と頷いてくれた。
「その前に、予選頑張れ」
俺が言うと糸田は僅かに恥ずかしそうにはにかんだ。
「おう」と端的に答えた糸田の表情はなんとなく可愛いのかも。
ふとそう思って宗田を見ると、顔を赤らめて糸田をガン見していた。
鼻血でも垂らしそうな勢いだったので、俺はそっと宗田から距離を取った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
94 / 114