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Wデート -4-
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糸田たち3年の引退が掛かっている夏の地区予選。
1回戦は見事突破したものの、2回戦の相手は県内屈指の強豪校で、呆気なく敗退してしまったらしい。
それを俺は宗田から届いたメールで知った。
宗田は糸田を応援しに会場まで行っていたようだ。そこには俺を誘わないんだな、と少しモヤモヤとしたが気にしないことにする。
送られてきた写真に私服のクラスメイトがいたことにもモヤモヤが広がったが、それも気にしないのだ!
「どうしたんだよ井瀬。機嫌悪いぞ?」
朝からニコニコと上機嫌な宗田が隣の席の俺に絡んでくる。
「…別に」
「なんだそれ。サワジリか」
「お前は機嫌良いな。そんなに楽しかったかよ、野球部の試合は」
厭味ったらしくなった口調に内心焦るが、意地でも表情には出すまいと頑張れば頑張るほど、顔は強張ってしまう。それがおそらく不機嫌に見える要素の一つだろう。分かってはいるが、俺はそこまでポーカーフェイスが上手くない。
「え? 楽しかったよ! 負けちゃった試合も糸田はすごかったんだぜ!」
まるで自分のことのようにキラキラとした笑顔で語る宗田に、ああそういえばこいつはイケメンだったなぁと思い出す。イケメンなのに残念な宗田を前にしていると、今まで不貞腐れていた気分が少しだけ明るくなった。
それからいかに糸田がすごかったかと宗田の熱弁が休憩時間いっぱいまで続いた。それを聞きながら、やっぱり誘ってほしかったなという思いが募るだけだった。
悔しくはないけど。全然悔しくないけど。
糸田のプレーは宗田視点から見ればさぞ素晴らしかったようだが、よくよく聞いてみれば普通のプレーのようにも聞こえた。
ツーアウトの場面でセンターに飛んできたボールを糸田が取ってアウトにしたんだ、とか言われても、そりゃそうだなと頷くしかないだろ。野球はそういうスポーツだ。
そんなわけで無事、糸田が野球部を引退した。
ということは放課後は糸田の部活がなくなったということで、早速宗田は一緒に帰るべく、2組へと迎えに行くことにしたらしい。
宗田が昼休みにさり気なくそのことを糸田本人に言ってみれば、糸田はさらりと答えた。
「あ、悪い。夏休み入ったら塾行くから、一緒には帰れなくなるんだ」
「え…」
どうやら毎日一緒に下校できると思っていたらしい宗田だが、それは叶わぬ夢となった。
「別に宗田と帰るのが嫌とかじゃなくて。夏休み前までは帰れるって言いたかっただけなんだけど」
目に見えて落ち込む宗田に糸田が慌ててフォローを入れる。
宗田は感情が素直に表に出る分、気持ち悪い時もあるが分かりやすくもあって、見ていて面白い。そういうところが親しみやすくて友達も多い要因なんだろうと思う。
「そっか、糸田は受験か。大学も決めてるの?」
俺は一緒に帰れるかどうかよりも糸田の進路の方が気になって聞いてみた。
「一応、志望校はある。今の成績のままなら大丈夫そうだけど、やっぱり不安だし塾行くことにしたんだ」
糸田の話では夏休み中にある夏期講習から本格的に塾に通うことになっているらしい。俺も高校受験の時は夏休みから塾に通いだしていたから、その時のことを思い出してみる。
「ふうん。じゃあ俺も塾行こうかなぁ。糸田はどこの塾に行くの?」
そう言ったのは宗田である。夏休みに会える口実を探しているんだろうな、となんとなく邪推してみるが、あながち間違ってはいないだろう。
糸田が答えたのは都心近くの大きな進学塾だった。テレビCMも流れている有名な名前のところだ。
「宗田も大学受験か。どこの大学受けるんだ?」
「えーと、一応考えているのは国立と私立で…」
なぜかあたふたとした態度で宗田が答えた大学名は、誰でも知っている2校だった。そしてどちらも県外だったのには、俺は少し意外だった。
話を聞きながら、糸田のことで頭がいっぱいのような宗田でさえちゃんと進路のことを考えているのかと思い知らされた。
これはWデートだなんだと浮足立っている場合ではないのではなかろうか。
そこまで思って、ハッとする。
…そうか。俺は今、浮足立っているのか。
柄にもなくデートという言葉に敏感に反応していたのは、他の誰でもなく俺だったのだ。
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