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Wデート -5-
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Wデート当日、興本がわざわざ家まで迎えに来てくれた。二人並んで、駅まで歩く。そこから電車に乗って、目的の駅へと降り立った。
日曜日の昼近い時間帯、駅周辺はどこもかしこも人が多い。
「映画館なんて久しぶり」
俺が言えば興本も頷いたので、なんとなく嬉しくなる。
昨日から俺はそわそわしっぱなしなのだった。
俺も興本もTシャツにスキニ―パンツという恰好は似たり寄ったりなのに、この差はなんだろうか。顔か。顔しかないな。
興本の方を見上げれば黒髪は少し色が抜けて茶色くなっていた。髪が伸びて隠れている耳からは小さくピアスが見える。
「髪伸びたよな。切らないの?」
「んー。そろそろ切るか」
瞼近くまで伸びた前髪を無造作に掻き上げる興本は同性から見ても格好良い。近くにいた女子たちの視線は興本に釘付けだ。
そんなふうに他愛ない会話をしながら糸田と宗田を待つ。
暫くしてやって来たのは宗田だった。ロング丈Tシャツの上に無地のTシャツを重ね着して、黒のスキニ―パンツを履いている。胸元のネックレスにセンスが光る。
やはり見た目だけは爽やかイケメンの宗田と、男前系イケメンの興本が並ぶと周りの女子からの視線が痛い。
「おはよ~! あとは糸田だけ?」
「あ、うん」
早く糸田が来てくれないかなと、どことなく心細くなっていると、ふらりと糸田が現れた。
糸田のファッションは無地のシャツに開襟シャツを重ねて、下はジョガーパンツ。なんでみんなちょっとオシャレなんだ。いや、宗田がキメてくるのは分かるけど。唯一の頼みだった糸田までがオシャレに見えるのはなぜなんだ。坊主頭なのに。
「糸田、おはよ! この前の遊園地の時の服も良かったけど、今日の服も可愛いね!」
すかさず糸田を褒める宗田は流石としか言いようがない。でもそれは女の子なら喜ぶかもしれないが、男相手に〝可愛い〟はどうなんだろう。
「お、おう…」
ほら。糸田の反応は微妙だ。きっとお世辞程度にしか思われていないぞ。いや、お世辞と思われていたらまだ良い方か。
「それより今日は何を観るか決めてるのか?」
宗田の高いテンションに糸田が若干引き気味なのを察して、俺が横から割って入る。
「皆で決めようと思ってたんだ。糸田、観たいのとかある?」
宗田は答えながら、携帯画面を開いて見せた。近くの映画館のホームページが開かれていて、そこで上映されてる作品のラインナップが表示されている。
「うーん…。井瀬は何かある?」
「え、俺?」
何も考えずにぼんやり眺めていれば不意に糸田が振ってきたので、慌てて宗田の携帯画面を改めて覗き込む。
パッと見て、最近CMでもよく流れている洋画のアクション映画と、ヒロインの女優が可愛い漫画原作のラブコメ映画が目に入ってきた。でも男4人でラブコメはないな…。
「俺はコレかな」
そう言ってアクション映画の画像を指差せば「じゃあそれで」と決定を下したのは興本だった。
まじか。
「あんまり時間ないから、さっさと行くぞ」
なぜか興本が先頭を切って歩き出す。背中を押されて俺も興本の横に並んで歩き、糸田と宗田が後ろから追ってきた。
「糸田はあれで良かった?」
背後で宗田が糸田に問いかける声が聞こえる。
「…そっか。良かった。楽しみだね!」
糸田の声は聞こえなかったが頷いたのだろう。明るい宗田の声が再び聞こえて、俺はそっと胸を撫で下ろした。俺が勝手に決めて良かったのかと戸惑っていたからだ。
「興本は観たい映画とか無かったの?」
ふと興本を見上げれば、こちらを見下ろす興本と目が合った。
「俺も同じのが観たかった」
「え、ほんと?」
そういえば興本の趣味とか好きな映画とか本とか、そんな話はあまりしていないから、好みとか全然知らない。アクション映画が好きなのかな。趣向が似ていてちょっと嬉しくなる。
俺が思わず顔を綻ばせると、興本の目尻が少しだけ下がって視線が柔らかく感じた。
「嘘。井瀬が観たいのが良い」
ウソかよ。
でも興本の表情が柔らかいから、俺が観たいのを観たいと思ってくれてるのは本当なのかもしれない。それもやっぱり嬉しいから、俺は良かった、と笑顔になる。
「楽しみだなぁ」
ふわふわ、うきうき。どことなく意識が浮ついている俺は、自然と興本の腕が腰に回されていたことにも気づかずに、呑気にチケット売り場へと並んでいたのだった。
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