アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Wデート -7-
-
開場時間になり指定の座席へとそれぞれ向かった。席が離れたと言っても宗田と糸田は前後で座席を取れていたようだ。背もたれ越しに宗田が何度も振り返って後ろの糸田に声をかけているのが見えた。
「うん、やっぱりここ見難いよな?」
壁側に俺が座り、その隣に興本が座る。一番後ろというのは良いとして、映画館で観るなら俺はスクリーンを真正面から見たい。
「文句あんのか」
「ううん。隣に人がいないのは落ち着くよね」
興本に睨まれてあっさりと口を閉じる俺は従順で良い子だと思う。
「だろ」
俺が首を横に振れば、にやりと口角を上げて笑う興本はホルダーにカップを入れるとそのまま右手を俺の左手に絡ませてきた。俺の指の間に興本の指が差し込まれている。
まだ人が入りきっていない明るい中での恋人繋に驚いて興本を見上げると、そっと顔が近づいてきた。
「え、ここで?」
「ん?」
触れると思っていた唇には何も起きず、興本はただウーロン茶を飲んだだけだった。
なんだ。びっくりした。恥ずかしい。
興本の隣には大学生くらいの男女のカップルが座っているのが見えた。隣も何やらいちゃいちゃとしているので、こちらの方には意識がないようだ。
「ポテト食べないの」
糸田から貰ったポテトを興本が左手で掴み、俺の口元へと持ってくるので、俺は口を開けてそれを迎えるしかない。
「興本も食べていいよ」
俺もポテトを一本取って興本ン口元へと持っていく。
興本は俺の手からポテトを口の中へ入れるとすぐにもう一度俺の方へとポテトを持ってくる。
口元に持ってこられたポテトは食べる以外選択肢はなく、俺は再び口を開けた。
「…なんかこれ、恥ずかしい」
ナチュラルに食べさせあっている事実に気付いて興本と目が合わせられない。もっと過激なことだってしているはずなのに、公衆の場所だからだろうか、とても恥ずかしい。
「照れてるんだ。かーわい」
興本に羞恥心はないのか、そんな俺を見て興本はふふっと笑う。
そしていくつかポテトを食べた後、ようやく照明が落とされ、暗くなる。
スクリーンには予告やCMが流れ始めた。
「予告見ると観に行きたくなるよな」
有名な物語を新たな切り口で、というのが売り文句の新作映画の予告が流れて興味をそそられる。
「映画は予告が一番面白いでしょ」
見栄えのする場面を切り貼りしてるんだから当然だろうと言う興本の身も蓋もない理論に、まあそうか、と納得する。
「井瀬が観に行きたいならまたデートでもする?」
絡まったままの手を持ちあげて興本が言った。
ふと隣を見ると興本はこちらを見ていて、暗い会場の中でゆっくりとその輪郭がはっきりとして来る。
興本が顔を近づけているのだ、と気づいた時には唇に感触があった。
「え…」
俺の口は意味のない音を発し、たぶんそれは、興本の言ったセリフと行動のどちらにも対する俺の戸惑いを表したものだ。だって普通にびっくりするだろ。
「こんな風にキスしても誰も見てないよ」
耳元でそんな囁きが聞こえた。
確かにここは映画を観る場所なのだから、スクリーンに集中している皆の視線がこちらに集まることはないだろう。けれども、だからと言ってキスをする場所でもないことは確かだ。
なのに俺は抵抗の言葉も出てこずに、ただもう一度触れてきた興本の唇を受け入れる。
そっと触れるだけのキスだ。それでもすごくドキドキとする。
緊張と、興奮が交じり合う感覚が脳を痺れさせる。
予告はまだ流れている。大きな爆発音が聞こえる。何人もの叫ぶ声が聞こえる。戦争がテーマの映画なのかもしれない。
「舌、出してみようか」
そんな中で興本が囁く。俺は素直に従って口を開いた。少し先だけを出した俺の舌に、ねっとりと興本の舌が触れてきた。絡まった指に力が入る。
やばい。勃起した。
部屋の中でするような激しいキスではないのに。口の中をゆっくりと犯される感覚に自然と息が上がってくる。
そしてそれは突然に終わりを告げた。体を離した興本は平然と姿勢を正面に戻して背中を後ろへ預ける。
顔だけはこちらに向けたままだが、その表情まではうまく読み取れない。おそらく笑っていると思う。俺が情けない顔をしているだろうから。
「始まるぞ」
なんてことのない、映画が始まることを告げる言葉だ。
けれど俺には、俺を焦らす言葉にしか聞こえなかった。
それからの約二時間、俺はその通りに悶々としながら映画を見続けたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
98 / 114