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元カノ -8-
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テレビから流れるバラエティ番組の笑い声だけが部屋を盛り上げていく。
サリナさんは俺の胸に抱き着いたまま離れないし、俺もサリナさんの手を振りほどけずにいた。
「サリナそんなに魅力ない? 傷ついたんだけどぉ」
サリナさんの口調が間延びしたものに戻って、機嫌が直ってきたのかなと少しだけ肩の力が抜ける。
「そんなことないよ」
「でもサリナとはヤりたくないんでしょー?」
「ごめんね。でもそんな風に簡単にするコトでもないじゃん」
ぐりぐりと頬を擦り付けてくる女の子は本当に可愛い。性欲に繋がる興奮まではいかなけれど、愛らしくてそっと肩を抱き寄せた。
すっぽりと腕の中に納まる女の子の体は柔らかくて心地いい。
それでも俺は興本の腕の中に納まっている方が気持ち良いのだと気付いてしまった。
「匠真はサリナがこうしたら、すぐに抱いてくれるんだぁ」
「興本は、そうだろうね」
「でも匠真も、あんまりキスはしてくれない。サリナはキス、好きなんだけどなぁ。匠真は嫌いなのかなぁ」
「どうなんだろう」
俺にはたくさんキスをしてくるけど、それを言えば拗ねそうだ。
「おっぱいは好きなんだと思う」
それは知りたくなかった。俺におっぱいないし。
「井瀬くんも触るぅ?」
指を絡ませている方の手をサリナさんは自分の胸に持っていこうとする。俺も少し興味はあったが、慌てて腕を引いて阻止する。
「触らないって」
「サリナおっきいのに、もったなーい」
「それ女の子が言うセリフじゃないよ」
「井瀬くんって女の子に夢持ってるよねぇ。ウケる」
内容はともかく穏やかに話せていてホッとする。
俺もサリナさんも思いの方向は違うけど、どちらも興本に想いを寄せている同士、通じるものがあるのは確かだ。
言葉にはしないまでもそれをどちらも分かっていて、だからこんな風に話せているんだと思う。
それから時間ぎりぎりまで同じ部屋で過ごし、すっかり日も落ちて暗くなった頃にビルを出た。
カラオケで歌いまくって少し喉を嗄らしたサリナさんが、通りに出ると大きく腕を広げて体を伸ばした。
「サリナ、ここで何もしないで終わったの初めてだよ~」
「男遊びが過ぎるんじゃないの」
一緒に過ごした時間はかなり濃く、体は繋げなかったものの、俺もサリナさんに対してはだいぶフランクに接せるようになっていた。
「だってサリナにはこれしかないもん。匠真もね、同じだと思うんだぁ」
「…好きな人がそんなんで、辛くないの?」
「しょうがないじゃん。そんな匠真と出会って好きになっちゃったんだもん。それに―—」とサリナさんは振り向いて意地悪っぽく笑みを浮かべる。「直登くんには言われたくなーい」
「確かに」
思わず聞いてしまった俺は肩を竦めるしかない。
「あ。ねー、駅はこっちだよぉ」
交差点に差し掛かった時、何も言わないサリナさんが立ち止まって振り返る。俺が道を知らないと思ったのか親切に教えてくれたが、俺はもともとここで別れる気はなかった。
「暗くなったから送る」
するとサリナさんは目を開いて驚いた。そこまで驚かれることではないと思うんだけど。
「直登くん、紳士だぁ!」
「男として当然でしょ」
「やさしーねぇ。サリナ、匠真じゃなくて直登くんのこと好きになりそぉ」
「それは困るな」
俺は苦笑を浮かべるが、構わずサリナさんは俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
今日の数時間だけで分かったことは沢山あるが、サリナさんはスキンシップが激しい。ホテルで誘われてきたことは論外としても、簡単に抱き着いたり腕に触れたり、普通に接するだけでドキドキとさせることを自然にしてくるのだ。
そこに他意があるのかは分からないが、慣れない俺はサリナさんがこうして密着してくる度に緊張にも似た鼓動の早さを覚えた。
今日は暇だからぶらぶらしていたと言っていた通り、サリナさんの家はこの地域からすぐの所にあった。
本当は電車に乗ってショッピングができる所まで行こうとしていたらしく、それも頷けるほどにこの辺りはオフィスか住宅街しかない町だった。
繁華街と言えば先ほどのネオン街だが、昼間に若い子が行く場所ではないだろう。
街灯も少ないようなひっそりとした住宅地を歩いていけば、縦長の3階建ての家の前に着いた。1階部分は玄関と車一台分の駐車場があるだけの、一般的な一戸建てだ。
「ここだよー。わざわざありがとねぇ」
腕から離れてサリナさんが俺に向き直る。
「うん」
「また遊ぼうね!」
「普通の場所だったらいいよ」
「今度はフツウにえっちしよぉ」
「だからそれはしないって」
「あはは! 冗談だよー」
サリナさんは笑い飛ばすが俺には冗談には聞こえなくて、困ったように笑うしかない。
それじゃあ、と玄関に入るように促せば、サリナさんはもう一度笑って手を振ってくれた。
鍵を回してドアを開く。サリナさんの体が完全にドアの向こうへ消えるまで見届けてから、俺は背を向けて来た道を戻る。
初めて来た場所で迷子にはなりたくないので、とりあえず携帯を取り出してマップのアプリを開く。
「あっ」
手元ばかりを見ていて人が前に来ていたことに気付くのが遅れた。
突然聞こえた声に顔を上げれば、綺麗な女の人が驚いたように俺を見ていた。
「…あ」
街灯と月明りしかない暗い夜道でも俺はその人を知っていた。
俺も思わず声が漏れる。
「井瀬くん…だよね…?」
彼女が俺の名前を呼ぶのを不思議な気持ちで聞く。
「どうしてこんな所に?」
彼女の疑問は尤もだが、それは俺も同じだった。
「サヤカさんこそ…」
どうして興本の元カノがこんな所にいるんだろう。
初対面ではないにても直接言葉を交わしたのはほぼないサヤカさんが、俺を見て驚いている。
どうしてここに、というのが俺とサヤカさんの共通認識だった。
「俺はサリナ…あ、いや、友達の家が近くで」
「あたしは家に帰るところ。…サリナって、早里奈と友達なの?」
ついサリナさんの名前を言ってしまったところで、どうやらサヤカさんも心当たりがあるらしい。
「友達というか、興本繋がりです」
言葉の綾で友達と言ってしまったが、今日の今日でそんな名前の間柄になれたかどうかは疑問だったから、そのまま言い切れなかった。それでも興本の名前を出せば、何となくは察してくれたらしい。
興本と付き合いが長いだけあって、サヤカさんもそれ以上は深く聞いてくることはなかった。
「…そう。早里奈と」
「サリナさんとお知り合い何ですか?」
そう聞けば、こてん、とサヤカさんは小首を傾げた。
「あれ、匠真から聞いてない?」
「?」
「あたしと早里奈、姉妹(きょうだい)なのよ」
「え…っ」
ええええぇぇぇぇぇーーーーー???
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