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#1
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比那side
俺の恋人は浮気性だ。
「もしもし、ゆいちゃん?…え、今から?………うん、大丈夫だよ。……はーい。じゃあまた、後でね」
俺が隣にいるにも関わらず、平気な顔をして他の誰かと電話する。
まるで俺なんか全く眼中に無いかのように。
また心がズキズキと痛む。
この現象も、今ではすっかり慣れっこだ。
東堂先輩は俺と付き合ってるんじゃないの?
なんで俺が隣にいるのに他の子と話すの?
何度も何度も言いかけて、言えなかった俺の気持ち。
言ってもきっと東堂先輩は笑って誤魔化す。
「この子は遊びで、俺にとっての特別は比那だよ」
そう呪文のように言い続けられた言葉を、俺は馬鹿みたいに信じることしかできない。
そしていつも言われる度に、俺が1番だと自分に言い聞かせてきた。
そうでもしないと何かが壊れてしまいそうな気がしたから、俺はそれ以外に何も求めなかった。
…それなのに。
信じて待って我慢して、何も求めなかったのに。
「あぁ、好きだよ…」
俺じゃない別の子に、好きだと伝えていた。
今までどんなに浮気現場に出くわしても、決して相手に好きだなんて伝えている所は見なかった。
そこだけが、唯一の俺の安定剤だったのに。
もうなにもかも分からなくなって、どうでもよくなった。
本当に俺が1番なのか、本当は俺が浮気相手なんじゃないか、色々な考えが脳裏に浮かぶ。
男と男なんて偏見があるのは否定できないし、俺達の関係の方が浮気だとすると妙にしっくりきた。
ねぇ東堂先輩…
俺は聞き分けのいいペットなんかじゃないんだよ。
もし俺が強くてわがままを言えるような子だったら、他の子なんて見てほしくなかった、浮気もして欲しくなかった、俺だけを愛してほしかった、そう伝えられたのかもしれない。
でも俺は強くないから。
そんなこと言えないから。
もし言ったとして、これ以上嫌われるのが怖いから。
「俺、出掛けてきますね」
「あぁ。気をつけてね」
だから俺は、こういうことしかできない。
浮気相手と会う東堂先輩のためなんて思いつつ、結局自分をこれ以上の悲しみから守ることしかできない。
俺がどんな顔でどこに行こうが、東堂先輩は気にしないし見ようともしない。
優しい言葉や態度は表面上なもので、本当は面倒くさがってるのかもしれない。
だって東堂先輩からしたらきっと俺が浮気相手だから。
「行ってきます」
東堂先輩からの返事はなく、俺の言葉だけが虚しくも零れる落ちる。
玄関の扉を閉める時、一筋の涙が頬を伝った。
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