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55《祐樹side》
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「…………はぁ……」
俺はスタジオを出てエレベーターに乗り込み、もう一度ため息をついた。
今日だけで、どれだけの幸せを逃しているのだろうか…。
我ながらメルヘンなことを考えていると、すぐに1階についた。
「…………………」
何だかよく分からないが、ものすごく嫌な予感がする。
俺は田村さんが言っていたことを思い出し、足早に社長室へ向かった。
エレベーターを降りてエントランスを横切ると、事務室や会議室が並ぶ廊下に出る。
そこを通り過ぎると、一番奥に社長室が見える。
この事務所は、3階建てだ。
敷地は広いが、建物は低い。
地下はダンススタジオ、1階は上の通り、2階と3階は会見を開いたり、コンサートのリハーサルができるような広い部屋がひとつずつあり、その他は資料や、衣装などが仕舞ってある倉庫、事務所に所属しているタレントたちが貰った、賞のトロフィーや表彰盾などが飾られる部屋になっている。
どうして社長室が1階なのかって?
それは、あくまで噂だけど、社長が高所恐怖症だかららしい。
噂だけどな。
「た、拓真さんッ!」
社長室へと続く廊下の角を曲がろうとしたとき、あいつの声が聞こえた。
俺が急いでそこへ向かうと、あいつは俺に背を向ける形で、宇野に後ろから抱きつかれていた。
「姫と最近会えなくて、俺すげ~寂しい…」
「ぅえ、ぁ、ちょ、拓真さん、あの、」
宇野の言葉か、抱きつかれていることにか分からないが、バタバタと慌てている。
気が付くと俺は、あいつの腕を引っ張り自分の腕の中に抱き寄せていた。
「宇野センセイ、こいつが嫌がってるんでやめてもらっていいですか?」
俺は、いつも飄々としている宇野に自分の胸の内を知られたくなくて、わざといつもより他人行儀に接する。
驚いたのだろうか、俺の腕の中がうるさい。
お願いだから嫌がらないでくれと、よく分からない感情のまま腕に力をこめると、少し大人しくなった腕の中のぬくもりに何故かひどく安心した。
「…取りあえず、こいつのことは渡さないんで。」
宇野との言い合いの末、俺の口からこんな言葉が飛び出した。
.…こんなこと言うつもりじゃなかった。
でも、今俺は、このぬくもりを取られたくないと思った。
俺は居ても立っても居られなくなり、ギャーギャーうるさいこいつの腕を引っ張ったまま、廊下を引き返した。
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