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シエルは復讐を誓い、メジエールの門外にポツンと残されていた漁船に乗って1番近い国までたどり着いた。
国が滅ぼされ1か月が経っているが、世間の話題は未だメジエールの没落。
そして、ペリグレットの繁栄だ。
「ペリグレット……」
シエルは新聞を破り捨て、その忌まわしき文字を踵で踏みにじった。
後先考えず、ペリグレットへ乗り込もうと意を決した時だった。
「そういえば、メジエールの第一王子?その死体だけ見つからなかったらしいぞ」
「あー、聞いた聞いた。国中隈なく探してもいなかったらしいな。どこかへ逃がされたんじゃないかって専らの噂だろ?」
「絶世の美女なんだろ〜?一度は拝みてぇな〜」
シエルは冷や汗をかいた。
自分の生存が世間にバレている。
捕まえたら殺されるかもしれない。
両親や国の復讐をしなければならないのに。
ましてやこの目だ。
世にも珍しい翠と紅の瞳。
目を見られたら確実にバレる。
シエルは裏道へ逃げ、ゴミ捨場にあった大きめのフードを被った。
夜になり、体が食べ物を欲するが、下手に街へ出ることはできない。
ギュルル〜〜………、と大きくお腹が鳴った。
「おい、ガキ。これやる」
木箱の上でしゃがみこんでいると、上から声をかけられた。
顔を上げるとそこにはシエルと同じく、フードを被った少年が立っており、手には焼きたてで香ばしい匂いを放つパンを持っていた。
少年はシエルの隣に腰をかけ、手にある温かいパンをシエルに差し出した。
シエルはビクビクしながらそれを受け取り、一口一口よく噛み締めて食べた。
「お兄さん、ありがとうございます……。でも、どうして…?」
「目障りだっただけだ。どうしたんだ、おまえは。こんな小さいくせに親に見放されでもしたか?」
「違うよ…。父様と母様はもう………」
シエルの瞳からは涙が溢れ、言葉もままならない。
少年は乱雑にシエルの頭を撫で、言葉を紡いだ。
「言わなくていい。いいじゃないか、そんなに愛してくれた親がいたなら。」
それだけを言い残し、少年はその場を後にした。
「あの…っ、お兄さんっ……!名前は……」
少年は立ち止まり、振り返ってこう言った。
「アルベール……」
「………え?」
「アルベール=ヴィクトリアだ。」
シエルは月明かりに照らされたその少年の顔をはっきりと脳裏に焼き付けた。
バイオレットの切れ長の瞳。
すっと通った鼻筋、薄い唇。
こげ茶色のサラサラとした髪。
そして淡々とした冷たい声。
心臓がギュッと掴まれたような感覚に陥った。
シエルは幼いながらに、初めてあったこの男に心を奪われてしまったのだ。
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