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小さなブーケをいくつか作ってくれと言われたので、圭吾はカウンターの中の椅子に座り、テーブルに並べたいくつかの花を一本一本、束ねていた。気軽に買える程度に、と指示を受けており、色だけではなく値段も考えながら試行錯誤している。
立山が、小型種のひまわりが生けられたバケツを抱えてやってきた。
「これ、使ってみてくれるかしら? 鮮やかな黄色が可愛いでしょう?」カウンターの横にバケツを置くと、不安げに店の出入り口へ視線を向ける。「遅いわね、あの子」
「もう一度電話してみましょうか」
「今日は来ないものと思っておくわ。ああ、ごめんなさい。そろそろお昼よね。ブーケは一旦休憩しましょう。どこかで食べてくる? 買ってくる?」
「買ってきます。立山さんは? 今日もお弁当ですか?」
「ええ、そうよ」
「いつも大変じゃあないですか?」
圭吾の知る限り、立山が弁当を持ってこない日はない。
「主人に作るついでですからね。特に、面倒に思ったことはないかな」
「結婚されて、何年なんです?」
「もう二十年くらいかしら。いいえ、十九年? 結婚生活が長いと、ついつい忘れてしまうわね」立山は穏やかに笑う。「子供がいたら、生まれた年から数えて何年、って遡りやすいのだけれど」
「お子さん、いらっしゃらないんですね」
「婚約をしていた頃に事故に遭って、お腹の中が空っぽになってしまったの。だから、望んでも子供は、ね」立山は肩を竦めた。
手にしていた花をカウンターテーブルに置き、圭吾は眉を寄せて視線を落とす。
「すみません。俺……」
「いいの。もう何年も前のことですもの。ただ……たまに、申し訳なくなるかな。主人は子供が好きだから」立山の声は優しい。
圭吾が顔をあげると、彼女は何かを思い出すように目元を緩ませていた。
「結婚は、わたしからやめようって言ったの。あの頃は……女ではなくなったって思ってしまって。自分が情けなくてたまらなかったわ。子供はふたりくらい欲しいね、って話をしていたし、こんな身体になってしまって主人に申し訳ないと。でも……あの人は、それでもいいって言ってくれたの。人生において唯一望むものがあるならば、それは君だ、って」
人を愛しむ、温かな瞳だ。
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