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店員が酒を運んできた。幸樹は日本酒を、猛はカルアミルクをそれぞれ手に持ち、二度目の乾杯をする。
「おまえ、女が好むような酒を飲むんだな」
「辛いのも甘いのもいけるからさ。飲んでみる?」
猛にカルアミルクを差しだされ、幸樹は苦笑しながら首を振る。
小さなグラスは升に乗せられている。鈴蘭のような香りがした。ひと口飲むと、甘味と辛味がうまい具合に同居していて、さらっとした口当たりを感じた。
幸樹は手羽先に齧りついている猛へ、口を開く。
「引っかかることは他にもある。大学時代の友人から圭吾は親友だと聞いていたのに、圭吾から連絡が入らなかったことだ。今もまだ連絡がないぞ? 別に、おまえたちの邪魔をしようだなどとは思っていないのだから、メールくらいは交わしてもいいだろう?」
目の前に手羽先を、ナイフのように突きつけられる。
「メールも嫌だね。幸樹に送る時間があるなら、俺に送ってほしいもん」鼻を顰めている。
記憶にある姿からは想像できない答えだったので、幸樹は少々驚いた。昔の彼は、こんな風に独占欲を抱く姿を見せてこなかったように思う。いつも誰かとはしゃぎ回っていた。圭吾は元々猛の親友であったけれど、自分が彼を奪った時には何も言ってこなかったのに……と、そこまで考えて、幸樹はぎくりとした。奪うとは、どういうことなのか。ああ、親友の座を、奪った。いいや、それにしてはおかしい。親友はひとりだけしか持てないわけではあるまい。
黙っていたら、猛から訝る視線が突き刺さってきたので、その考えを頭から振り払った。
「嫉妬深いな」
「そりゃあ、そうだ。好きなんだから」
幸樹にはその感覚がいまひとつわからなかった。嫉妬とは、愛する対象の愛情が他に向くから恨むのである。つまり、自らに自信がないということと、相手を信じていないということが組み合わさって生まれるものだ。いくら好きだからといって、相手の自由を奪うことが正しい行いとなるのか。何よりも、自らを貶めるような行動に出てしまう、嫉妬、深すぎる愛とも言えるそれが、自分の中に存在していなかった。
猛に対して、呆れると同時に羨望が湧く。
幸樹はグラスの三分の一ほどを飲み干し、升に零れていた日本酒をそこへ注いだ。
「付き合ってどのくらいなんだ。事故に遭った頃から付き合っていたのか? だから圭吾は俺へ連絡をしなくなったということか?」モツ煮込みに箸をつけ、幸樹は尋ねた。
「あー、うん。そうそう」
「おざなりだな」つまらない嫉妬をするくらいならば、交際をアピールしてくればいいのに。どう告白をされたのか、どう告白をしたのか。初めてのキスはどうだった、とか―まあ、言われたところで、こちらとしては胸が悪くなりそうだが、と幸樹はこっそり舌打ちをする。
猛はカルアミルクをちびちびと飲んでいる。もしかしたら酒にさほど強くないのかもしれないけれど、顔には酔いが出ていない。
「他は?」
「美加が、圭吾のことを怖いと」眉を顰めながら答えた。
「ふぅん。もしかしたら、俺らのことを本能的に警戒しているのかもよ。だって、ほら、同性愛者なわけで」
同性愛者という言葉に身が強張ったが、顔には出さないように気をつけた。
「……おまえ、ゲイなのか? バイではなく? 圭吾も?」
「圭吾のことは知っていても言えないな。だって、性的にマイノリティなわけだから。軽薄に暴露はできない」猛はにんまり笑う。「ちなみに俺は、ゲイ」
「そうか」と、短く言うことでしか反応できなかった。
「気持ち悪い?」猛はそう尋ねてくるものの、おどおどとした様子はない。むしろ、同意したら殴られそうな雰囲気だ。
「どうだろう。自分のことで精一杯だからな。わからんよ」
「正直だね」
「おまえに嘘をつく理由がない」
幸樹がふっ、と笑えば、猛もつられたように微笑む。
「他に聞きたいことは?」
「圭吾は足を引きずっていたようだが……事故の怪我がまだ治っていないのだろうか」見舞いに行った時、圭吾の両親からは、彼が目覚めたとしか聞いていない。話はしたものの、たわいもない内容だった。事故から一年半は経過した頃なのに、傷の治りが遅すぎる。
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