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「やはりストーカーか。警察に行こう」怒りを押し殺し、静かに言った。
美加は不安げに首を振る。
「証拠がないもの」
「俺が目撃した」
「身内だから信憑性が……それに、騒ぎになりたくないの。もしも騒ぎになって、あいつが動画をネットに流したら……嫌よ。美樹ちゃんの将来にも関わるわ」
今度あの男を目にしたら、とっ捕まえてデータを奪おうと幸樹は決意した。人を殴りたいと思ったのはいつ振りだろうか。そう、あの時も、胸が怒りに震えた。彼がガラの悪い連中に絡まれたあのとき―彼? 誰だ。どうして、彼、つまり同性が絡まれただけであるのに、そうも怒る必要があったのか。男ならばそこまで気にする必要はない。女とは違う。女は、力が弱いのだ。守ってやらないと簡単に潰されてしまう。
頭痛が、ツキン、ツキン、と脳を揺さぶってくる。ざらざらと走るノイズ。誰かが……自分を呼んでいるような気がした。泣きながら、必死な声で、何度も、何度も。
「せめて弁護士に相談しよう」今はとにかく、美加との話に意識を集中させるべきだ。幸樹は軽く頭を振った。
「相談はしてあるの。だから心配しないで?」
美加は身体を離すと、風に乱れた髪を手櫛で整え始めた。
「そういえば、こんな夜中にここで何を―美樹、美樹は!?」まさか、乳飲み子をほったらかして外出したとは思いたくないけれど、今までの美加の様子からしたらその可能性がある。
幸樹の形相に驚いたのか、美加は少々身を竦ませた。
「実家に預けているのよ。法律事務所に行った帰りなの」
「事務所はまだやっているのか? こんな時間まで?」
「知り合いの弁護士だから」美加は辺りを見回す。「それで、あなたは? 接待に使ったお店はこの近くだったの?」
しまったと幸樹は内心舌打ちした。猛を接待したのだ、と言うには無理がある。
さて、どうするか。嘘を誤魔化すには、そこに真実を混ぜることが一番効果的だ。
「接待は早く終わったんだが、たまたま猛とばったり遭遇してな。ふたりで飲んでいたんだ」
「猛君は?」
「そこの道端で吐いている」細い道を指差した。
「そうなの。わたしが車を運転するから、彼を家まで送ってあげましょうか」
幸樹は頷いた。それは、打算からの頷きだった。圭吾と会えるならば、どんなチャンスでも逃したくなかった。
美加と一緒に細い道に戻る間、自嘲の笑みが浮かんだ。
これは何だ。
圭吾に対して、執着に似た思いがあるようだった。
これは何だ。
幸樹は思考に浸る。気づけ。気づけ。この引っかかりに、どんな意味があるのだ、と。
戻った場所に猛はいなかった。泥酔状態であったのにどこへ消えたのだろうか。
数分ほどふたりで探してみたが、彼の姿は見つからなかった。
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