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これも食べろ、って差し出された唐揚げ。
食べるのは両親が死ぬ前が最後だったかもしれない。
預かられてからはろくなものを食べてなかったし、それ以来食に興味だってなかったから自分で買ったりもしなかった。
いい匂いのするそれを一つつまんで口に入れる。
作られて時間の経ったものを温め直してるから本当に美味しすぎた訳では無い。
でも こうして誰かがいる場所で 安心して食べるのは久しぶり過ぎて。
「美味しい、…っ…森宮、ねぇ…」
これが 幸せか?
そう聞こうと思わず笑みを浮かべて顔を上げる。
と、言うより先に前から大きく抱きしめられる。
…急に どうして?
「…森宮?」
「違う、…っ…違う羽白、それは幸せじゃない。…幸せってのはもっともっと大きくて積み重ねで…これはさぁ、幸せなんかじゃないんだよっ…」
「幸せじゃない…?」
暖かくて 美味しくて 楽しいのに?
言ってる意味がわからなくて首を傾げる。
俺の体を抱きしめた森宮が何かを言っているけれどうまく聞き取れない。
「…ね、森宮。大切な人とこうやって温かいご飯を食べられるのは幸せじゃないの…?」
「大切、な…?」
「俺にとって森宮は初めての、本当に大切な人だって思えるんだ。」
抱きしめてくれる森宮の背中に腕を回す。
優しく、体温を感じられるように。
あんなに人が怖いのに恐ろしくて仕方ないのに森宮だけは安心できる。
何もされないって信用できる。
それは 特別で大切な人だから。
「羽白、俺…変な事言うけど。もしかしたら羽白のことが…」
ピピピピピピピ
「な、っ…なに、電話…!?」
森宮の言葉に耳を傾けていると、森宮の後ろのポケットに入っていた携帯の着信音が鳴り響く。
驚いて慌てて体を離すと森宮も挙動不審になって携帯を取り出す。
「はい、もしもし…兄貴…?あーわかってるってもう帰るよ。親には明日言うからさぁ。…はいはい。またねーはーい。」
「…兄ちゃん?」
「そ。晩飯できたから帰ってこいってさぁ。」
「ごめん、引き止めてて。」
「俺が勝手にしたことだから気にしないでよ。じゃ、今日は帰るね。また明日。」
「…ん、また明日。」
慌てて家を出る森宮に手を振る。
部屋の中はシンと静まり返ってしまう。
『もしかしたら羽白のことが、…』
俺のことが…?
何故か熱くなる頬を抑えながら首を傾げる。
耳にまだ吐息を、体に体温を感じる。
まるですぐそばにいるように。
もしその言葉の先が"好き"の二文字なら。
「俺、何考えてんだよ…」
箸を置いて目を閉じる。
明日、どんな顔をして森宮似合えばいいのかわからない。
恥ずかしくて 照れくさくて仕方ない。
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