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嫌いにならないで
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森宮の手が伸びて俺の指先に触れる。
温かい。暖かい。
それだけで、きっと俺の考え方が間違っていたんだと気付いた。
嘘をついて隠す方がよっぽど嫌われてしまう。
「羽白、嫌じゃなかったら聞きたい。1人で抱えるより2人の方が半分だしさ。」
「…うん。」
泣かない。弱音を吐かない。
それは少ししか守れてない。
でも、きっと前よりは強くなってる。
情緒不安定にはならないんだ。
ほら、落ち着いて話が出来る。
「親が死んで、引き取られて。知らない家で暮らしてた。みんな最初は優しかったけどすぐに怖くなった。まずは俺の7つ上の兄。次に5つ上の兄。」
「何人家族だったんだ?」
「父親、母親、兄が3人。7つ上と5つ上と1つ上。俺があの家に行ったのが小1の時だったから中学生の兄は怖くて仕方なかった。」
「…怖いって、例えば?」
「最初はものが無くなったり、蹴られたり、俺のせいにされたり。段々八つ当たりが増えてた。…それくらいの時から悪夢みたいなのを見るようになって。」
「悪夢、…か。」
いつも同じ夢を見た。
本当の家族3人でいる夢。
目の前で両親が血みどろになって消えてしまう。
周りからは悪口や罵倒に襲われる。
いつも眠っている方が地獄だった。
「小2になる前、入院した。声が出なくなった。」
「え、…?」
「医者にはストレスだって言われた。何も考えずにのんびりしてればいい、いつかきっと話せるようになるって。見舞いに来た家族は俺に毎日、請求書を読み上げてた。あの時はまだ小さくて良く分からなかったけど。」
「…なるほど、な。」
医者はいつも不憫そうに俺を見ていた。
皆優しかった。
優しくて、優しすぎて怖かった。
いつ 俺を責め始めるのかわからなくて。
それから少しずつ嘘を覚えた。
「小4で退院した。本当はもう少し前に声が出るようになっていたけど…。退院してからは特別支援教室に通ってた。ほとんど午前だけだったから給食はあんまり食べてない。」
「…正直、聞いてて楽な話じゃないな。」
「ごめん。…でも話したら少しだけ楽になった。昔のことだって思えたし。」
「あのさ、…ごめん。ホントは"それだけじゃない"んだよね…?」
嘘はついてない。
これも全部小さい頃の話。
森宮の言う通りなんだ。
でも、これ以外は話したらきっと嫌われてしまうから。
それは…今までのどんなことよりも辛い。
「…羽白。」
むかし ずっとむかしのこと。
あのベランダを思い出す。
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