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逃亡後・ユキト
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人殺しを断念した今、理解できる。人を殺すのは、とことんなまでに『自分勝手』にならないと出来ない。
己と同種の命を消すという本能的な忌避を乗り越えて、相手の人生も周囲の事も考えず自分の感情だけで、ただの自己都合で叩き壊す。
究極の、エゴだと思う。
しかも突発的ならまだしもこの犯人は計画的で、それを重々承知しているからこそ、怖い。袋小路に追い詰められるような、真綿でじわじわ締め付けられていくような気がする。
――どうして…。俺が、何をしたんだろう…
同情はしないが、狐目の男もユキトのせいで殺されたようなものだ。
自分に非があるのなら償う。しかし、肝心の原因が分からないのだ。前にも南倉に訊かれたけれど、今まで生きてきて誰かに恨みを持たれる覚えはない。一番可能性があるとすれば、悲しいことに、母親だ。
――でも…
直情的な母と回りくどい犯人像が重ならない。真逆と言ってもいい。
分からない。心当たりすら、何ひとつ。しかし南倉は盗聴器を仕掛けたのが狐目のような協力者ではなく、犯人だと確信――協力者を増やすのはそれだけリスクになるから――している。
「やばい……怖い」
ユキトは自身の体を小さくなって抱きしめる。
先ほど帰りがけに南倉がしてくれたように。その際の長いキスを思い出して、必死に自分を慰めようとする。
しかし震えは止まらないまま、その夜は眠れなかった。
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