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対峙
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「爺ちゃんの本意とかは、俺には分かんないけどさ」
愕然とする兄に向けていた銃を南倉は無音で下ろす。
「彼はずっと沙羽のことを気に掛けてたよ。……亡くなるまで」
長谷部の腕が少年を離す。いや離すというよりは、力を失いずり落ちて行き。
乱れた服を今さら掴みながら、距離を取ってユキトが見上げた犯人の顔は。
まるで――この世の終わりのようで。
「死、んだ、のか」
ひゅうひゅうと、過呼吸に近い息の間に紡がれる問い。弟は、無慈悲にも頷く。
でもその色素の薄い目は、ユキトも前に見た慈愛を称えており。「爺ちゃんの、最期の言葉だよ」と泣き笑いの声で、伝える。
「『沙羽、南倉。Aura khu a rah』」
長谷部の瞳孔が、これ以上なく見開かれる。
『Aura khu a rah』は、祖父の母国語で、意味は。
『幸せに、なりなさい』
長谷部は地面に膝をつく。
踞り肩を震わせる兄に南倉は近付く。そして、やんわりと抱き締めた。
その兄弟の傍らで、ユキトも静かに、頬を濡らした。
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