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番外編Ⅰ
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坊っちゃんはハッとして「えっと、うん」とバツが悪そうに目を泳がせた。弱い部分を見せたくない年頃なのだろう。
でもその顔はどこか嬉しげで。誤魔化せないと悟ったのか、ようやく顔を綻ばせた。密かに安堵する。
「…稲田さんに、会ったんだ」
稲田さん。ある日突然辞めてしまった嘗ての同僚。明るく、しかし涙もろい優しい女性。
仕事態度も真面目だった彼女の急な辞去には私たち使用人も驚いたが、最近聞いた所によるとどうやら何らかの事件に遭っていたそうだ。
彼女の尊厳に関わるらしく、詳しい内容は知らない。
ただ、坊っちゃんは酷く思い悩んでいた。彼と稲田さんはまさに姉弟の如く仲が良かったので、その辛さは察するに余りある。
「そうですか…」
軽率に『お元気でしたか?』とも問えず頷くに留めた。
話に深く踏み込めないのを、長年坊っちゃんの世話をして来た身にとって寂しくないとは言えない。
だが私には、そんな幼稚な我儘をぼやく資格すらもとうの昔に失われているのだ。
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