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人差し指が綺麗に唇で拭われ、親指に舌が伸びてきた。
航さんよぉ。こういう時ばっかり笑うのは、やめろ。
「苛められるかもっ!」
声を振り絞る。
「構わない」
お前は何度同じ答えを言う気だ!
と、そこでひらめいた。
「湊に殴られるかも」
これでどうだ。
って、手首にまで唇を這わせるなっ!
ゆっくりと、顔が手から離れてゆく。何なんだこの、両手を握られた状態は。
体育祭の喧騒が、吹っ飛ぶくらいの衝撃スマイルがそこにあった。
爽やかー。いつも動かない表情が、こんなに輝く笑顔を作れるのか。
「俺は、誰が何と言おうとも何も気にしないし、気にならない」
ベリーショートの黒髪が風に揺れている。
「それ程にお前が好きなんだ」
ああ、だから、まっすぐ見つめてくるなよ、お前。その男前な顔面をこっちにひけらかしているのか!
変にこの空間が居心地悪い。
「お前は? まだ、決められないか?」
レーザービームのような強い視線が、眼球を突き刺してくる。
「迷っているのならば、俺のところに来い」
え、いいの? そんな状態で行ってもいいのか? 本当に?
「その迷いまで消し去るくらいにお前を愛してやる」
って待て待て待て。迷いを消し去るってちょっと待て。
俺が優斗を好きな気持ちまで消し去ろうとすんのか。何じゃそりゃあ。
――いつかは動かないと――という悠馬の声が、鼓膜に蘇ってくる。
そして湊。
――別の場所でゆっくり可愛がってやる。
優斗に気持ちを告げられぬまま、湊に食べられてしまうことは避けたいっ!
これはおちおちしてられん。そうだ。もう、真剣に動くべき時なのかもしれない。
体育祭の歓声が。さっきまで動いていた身体が気分を高揚させてゆく。
言ってやる。やってやる!
当って砕けろ! って砕けたらいかんがな。
いやいや、しかしだな。とにかく当ってみないと結果はわからんだろ。
もし拒否されたら? なんて怖気づいて、迷っている間に誰かに優斗がさらわれたらどうする――ってその前に俺が危ないんだった!
航の頭の向こう側、少し遠くから凄い勢いで走ってくる湊の姿が見える。
にこやかに微笑みながら手を振ってきているが……おい、涎、口の端から涎、垂れてるからっ!
「航、ちょっと俺、兄貴がそこまで来てないか確認してくるわ!」
慌てて握られている手を横に退け、立ち上がる。
すぐに足へ力を入れてダッシュをすると――おお、悠馬いいところに。
横をすり抜ける瞬間、小声で頼む。
「すまん、湊を足止めしといてくれ。俺は兄貴のところへ行く!」
悠馬が驚いたように目を見開いた。
「そ――」
聞いている暇は無いんだっ! 察しろっ! 俺の後ろを見てみろっ!
そのまま横を通り過ぎ、一旦昇降口へと逃げ込む。
こそりと辺りを見渡す。よし、誰もついてきていないな。
渡り廊下から校舎の裏側を通り抜け、校門までたどり着いた。
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