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「うるさいわね!細かいことは良いのよ!とにかく、試験に合格しなさいよ!」
そう言って、姉は、此方をビシッと指差す。
えぇ、あそこ、鬼レベルなんでしょ?
絶対に無理。
俺、今から勉強身に付けるくらいなら、カンニング力身に付けたい。
なんて。そんなこと言ったら、確実に姉にぶっ潰されるので言わないが。
「‥‥‥‥姉さん、あのさ、今からじゃもう間に合わな‥‥‥‥」
「あぁ?伊月、何だって?」
「い、いえ!が、ががが頑張らせて頂きますぅううう!」
伊月が半ばヤケクソにそう言う。
コイツ、どんだけ命知らずなんだ。
しかも、姉さん。いつものあの裏声どうしたの!?
今の声、ほんとに姉さん!?
それに、口調も男のそれ‥‥‥‥。
那月はそう思ったが、青い顔でそのまま立ち尽くす。
「はぁああ?頑張るだけじゃねぇよなぁ?なぁ、伊月?」
「は、はぃいい!必ずや、受かって見せますとも!」
姉の野太い声に圧倒されている伊月。
何だろう。
もう、ここまでくると、伊月が狼に食べられる寸前の兎のようだ。
というか、伊月、キャラ変わってるけど。
「あぁ、そういえば、那月はどぉなんだよ?あぁ?」
「‥‥‥‥シンデモゴウカクシマス」
もちろん、とばっちりは那月にもくるわけで。
ここは、素直に従う他ない。
きっと、こういうところで家庭内での上下関係が築かれていくのだろう。
なんとも恐ろしいことだ。
「兄さん達、いい加減にしろ。ほら、ちゃんと開いて。伊月兄さん」
「い、嫌だ!止めて、玲音!」
「無理。ほら、ちゃんと見て」
「ちょっと~?なっちゃんもさっきからずっと動いてないよ~?ちゃーんと動かしなよ~?」
「やっ‥‥!これ以上は‥‥っ、もう‥‥!死んじゃう‥‥っ」
「可愛いなっちゃんの頼みでも、それだけは聞いてあげられないな~」
姉を除いた那月達兄弟は、今、仲良く机を囲んでいる。
そう。勉強道具を前に。
ただ、この問題達を見る勇気はさらさらない。
というか、誰がこの分厚い問題集という名の図鑑みたいなものに触れるというのだろうか。
俺、現実逃避って、人生において、とても大切な言葉だと思う。
きっと、この言葉を作った人は、今の俺みたいな絶体絶命の状況に置かれた人の心を救うために作ってくれたのだろう。
なんとも、優しい人だ。
だが、忘れてはいけない事がある。
それは‥‥‥‥‥‥救われるのは、心だけなのだというのを‥‥‥‥‥‥。
さっきから、何度も問題集を開けようと手を伸ばすが、その度にどうしても固まってしまう手。
それは、隣にいる伊月も同じみたいで。
さっきからずっと那月達は、問題集に手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返している。
多分、家族で一番勉強ができるであろう玲音を筆頭に、皆勉強机に向かっている。
玲音は、勉強を教える側として必須要員。
最初は、3人でやるつもりだったのだが、突然颯太も一緒にやると言い出し、四人でやることにした。
しかし、このように俺ら双子がヘタレなせいで、結局勉強は進まず、癒し要員として葵が投入され、更には健人まで来て、仲間はずれは嫌だと歩夢まで参加することになり、結果こうなった。
玲音は、冷静さこそ失ってはいないものの、さっきからイライラしていることが伺える。
「時間は限られている。とにかく、早く問題に取り組むことをすすめる」
「‥‥‥‥」
「それは分かってるんだけどさ、さっきから手が前に進まないんだよね‥‥あ、はは‥‥」
にへらとして玲音を見ると、無表情で見つめ返される。
「‥‥姉さんに潰されても知らないから」
ボソッと玲音が呟く。
それからの俺達双子の動きは素早かった。
かつて、こんなに早く動いたことがあっただろうか。
いや、ない。
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